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第166話

CM撮影用のスタジオを入ると椅子に座っている男性が目に入る。その膝の上には小さな女の子がいて首元の匂いを嗅いでいた。 「妃那、充電できた?」 「できたぁ!!」 「じゃ、始めるよ?妃那はそっち、昶はこっち」 「ちょっと待って、昶はもう少しこっち向いて。で、カメラさんはもう3cm左」 「KAITO先生まだまだやってんねぇ」 玉妃が笑いながら雅に声をかけると 「全く……僕の出番がないですよ」 と雅が玉妃に微笑む。中薗のイメージとはかなり違った男性がそこには座っていた。 雰囲気はΩで顔の作りもどちらかと言えば可愛らしい方なのだが、パリッとスーツを着こなし、椅子に座っていても姿勢がとてもよく、βか、小柄なαと言われても違和感なさそうな印象を受けた。確かに、この部屋に入ると、うっすらと甘い匂いがした。その匂いはずっと消えない。椅子に座る彼と中薗との距離は5mほども離れているというのに、だ。 発情期に撮影を入れる訳がないから、発情期でもなければ、番のいるΩとしては、他のαに匂いを嗅ぎ取れるほどの匂いを発していたら心配されるのは当然だと思った。 その目線の先に次から次へと指示を出すKAITOの姿と、小さな2人が先輩たちの姿を真似るようにカメラが回り出すとプロの表情をする。そのままリテイクを3回ほどしたところで、一区切り着いて、今度は着替えをしたKAITOとYUMENOの番だ。 二人は少し真剣な表情で小声で話をしていたかと思うと、立ち位置に着いた途端にプロの顔になる。そして、来ている衣装を際立たせている上で、彼ら独特の可愛らしい表情で、この服を着てるのがとても素敵なのだとアピールをする。幼い頃から『魅せ方』を知っているプロの動きだった。ツヴァイに入社して以来、色んな現場に立ち会わせてもらったが、その誰よりもプロ意識の高さを見せつけられた気がした。 「雅さん、どうだった?」 「よく出来ました」 微笑んで頭を撫でられている彼は、無邪気な子供にしか見えない。そしてその後に 「ママ?ぼくもほめて?」 「昶もよく出来ました。二人とも上手だね。夢妃ちゃんも妃那ちゃんもすごく上手だったよ」 ニコニコする椅子に座った男性の所にまた妃那と呼ばれた女の子が膝の上に乗り、負けじと同じ歳くらいの少年が反対側の膝に乗り、2人揃って匂いを嗅いでいた。 「元気出たァ!!」 と2人揃ってまた、撮影のための衣装替えに戻っていく。その間もKAITOはあれこれ、とカメラマンと動画のチェックをしながらこうした方がいいかも、あぁした方がいいかも、と大人顔負けの意見を出し合っている。 「あれだけの実力を持っていて、どこの事務所にも所属してないなんて……」 呆然と4人の子供たちの姿を見つめている。 「一応、事務所ではないけど、クローバーの子供服の専属モデルとしての契約はしてるんだけどね。これも口外無用な件だけど、男の子は嶺岸、女の子はうちの子供たちだよ。 計画的に同じ頃に生まれるように出産してるからKAITOとYUMENOは同じ誕生日だし、下2人も同じ月の数日違いで生まれてる。今のところ、子供服の仕事にしか興味がないそうだよ。」 「あれだけ自分を知ってたら、欲しがる事務所も多いでしょう?」 「……ん〜、そうだね。でも、本人にやる気がないからね。親がいるからやってるって感じ。 特にKAITOはそうだよ。産みの親に褒められたくてやってるだけだから、彼から離れて仕事にするつもりはサラサラない。うちのはβだけど、あの椅子に座ってるのが嶺岸のパートナーで、KAITOを産んだΩ。 それ以外、この部屋にはαしかいない。うちの家族は全員彼の匂いが好きなんだ。あたしのβのパートナーも含めてね。Ωのフェロモンの匂いが苦手なあたしでさえ、彼の匂いだけは平気なんだよ。ずっと匂ってるけどいい匂いだろ?」 玉妃はニヤリと嗤って、隣に立つ男の表情を伺っていた。

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