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第172話
賢祐は店主としては理想的と言えた。
キャストに紛れて、客のチェックもするけれど、キャストの薬の管理も徹底している。
オーバードーズで死なれるのが怖いからだ。αを産んで、取り上げられた挙句に番の解除をされて、それでも唯一の相手だと相手を待ち続けている。保護施設のようなものだ。
玉妃の姉はその中でも例外中の例外だ。自分の兄が捨てた女を保護して監視している。玉妃が言うように戻してやりたいのもやまやまなのだが、その兄がたまに顔を出して相手をするからいつまで経っても彼女は諦めることが出来ない。愛人として囲えばいいのに、と思うが正妻が強いのが問題だ。
βの妻は気が強い。子供は産めるが、確実にαを産むか、は別問題だ。生まれた娘はβで時を近くして産まれた茅妃の息子がαでそのまま跡継ぎ候補として引き取られた。次に生まれた子供もβで、αが産まれるまで産もうとしてるようだが、茅妃に産ませた方が早い、と兄は判断しているようだった。
だからといって弟に任せるのもどうかと疑問に思うが、それしか手立てがないのだから仕方ない。精神的に不安定で、セックス依存症になっていることは確実だが、必要量以上の薬を渡すことは絶対にしない。日々、キャストの薬の管理はさせている。以前、1人オーバードーズで死なせてしまっていたからだ。
白石玉妃を揺さぶって、リカこと大山那恵を妻にしたかったが、元々は嶺岸樹のパートナーΩが原因だったことがわかり、顔を見に行ったが、『α恐怖症』と言って相手からはエントランスのカメラから顔を見られていたが、こちらからは見ることは出来なかった。そして同じ顔だから鏡を見ろ、と言われて隠し撮り写真を手配したところ、確かに似ていた。
そして、目の前のΩも嶺岸のパートナーと面識があり、リカとも面識があるだろう人間と話したくなっただけの事だったのに、触れた途端に発覚した相性の良さ。手近な場所に、と言ったのに長い時間に思えるほどで、すぐに履いていたデニムも脱がせられる状態にして、大きめのタオルケットで包んで車から下ろした。完全に発情した状態の彼を何故か、誰にも見せたくなかった。
自分も限界が近かった。部屋まではどうにか理性を保ちたい。無理やり発情させる術は習っていたが、そんなものじゃない。Ωの発情期の匂いですらこんなに興奮させられたことはない。
今まで感じたことの無い独占欲に強いフェロモンの匂い。触れただけで腰の奥に疼きを感じた。相手は躰の力が抜けて精神力だけで逃げ出そうとした。けれどそれだけでは逃げることもままならないだろう。手を引けば簡単に腕の中にすっぽりの納まった。その時心臓が跳ねた。
これを『運命の番』と言わずなんというのだろうか…… 触れただけでΩは発情して、自分もかつてないほどの興奮状態になっている。
マンションの部屋の鍵が閉まる音を聞きながら、寝室のボックスに鍵を収めた。上掛けをめくり、そのまま抱えていた人物をベッドにおろして自分も服を脱ぎ始める。
「おまえ、名前は?」
これから抱く相手の名前をこのタイミングで聞くのか、と笑ってしまいそうになるが、先に確認しておくに越したことはない。
「……川嶋……悠真……」
もう、自分のフェロモンでかなり飛んでる様子で嘘はなさそうだ。
「……悠真……悪い、手加減できそうにない。でも、たくさん気持ちよくなれよ?」
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