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第176話

「僕もね『運命の番』なんて都市伝説だと思ってたんだよ。僕はΩが集まる保護施設みたいなところの管理をしててね、発情期のΩと対面することなんて日常茶飯事なの。触れた瞬間にお互いが発情する、なんて経験は初めてだったよ。だから悠真が僕の運命の番なんだってすぐにわかった。悠真は若いから、どうして発情したのか、がわからなかったんでしょ? 悠真が可愛かったから、途中で理性も飛んじゃった。で、気付いた時には君の首元に歯を立ててた。でも、僕のものになった、っていう幸福感で満たされた。こんなこと初めて。」 宮日グループと言えば有名な企業だ。Ωの保護施設……と言えば聞こえはいいが、いわゆる、娼館だ。そこで心動かされるΩがいなかった、ということになる。まさか…… 「……変なこと考えてるね?悠真は僕の番になったんだから、店には出さないよ?番のΩが他の男やαに手を出された時の拒否反応はエグいよ?そんな(むご)いことさせるわけないでしょ?」 悠真の髪をクルクルと弄りながら賢祐はなんでもないように話す。 「僕はね、両刀なの。だから君が僕を抱きたいって思った時には思いっきり好きなようにしていい。抱かれたい時や発情期には絶対に外には出さない。徹底的に甘やかして溶けるまで抱き合いたい。他のαに君の匂いは感じ取れなくなるだろうけど、発情期の色気は隠せない。 その時に誰かに触れられたら倦怠感、吐き気、筋弛緩、そんな苦しい場所に僕が居ないことを絶対に後悔するからね。あ、そうだ、リカさんは元気にしてる?あ〜、本名は那恵さんだっけ、白石社長のパートナー。直々に挨拶に行った方が良さそうだな……一緒に来てくれる?」 ニッコリと微笑むけれど、なんのことかさっぱりわからない。 「あのβの女性ですか?お元気そうでしたけど、体調悪かったんですか?」 「たまにね、僕はお客さんの質を見るためにΩの振りをして店に出るんだよ。発情期のΩの匂いを体につけたり、似た香水を作ったりしてね。 ある日、僕を指名してきたのが白石社長とそのパートナーが結婚する前の頃店に来たことがあるんだ。その頃の彼女は荒れていてね。 元々白石の家は女系だし、性的対象も女性なんだよ。パートナーも含めてね。だから男Ωを抱いたのも最初で最後だったと思うんだけど、ペ二パンっていって女性が男役をする時に使勃起したペニスみたいなおもちゃのついたものね。 それでガンガンついてきたわけ。そういうプレイができる女性がいいなぁ、って打診してたんだけど、断られ続けてきてたの。でも、こんなに心が満たされた今、そんなことどうでもよくなっちゃった。もう何もしないって言いに行きたくて。変な心配をし続けるのも嫌でしょ?」 変なとこ律儀だな、とは思うけれど、確かに逆の立場だったら嫌だと思う。 「これからもそうやってお店に出るの?」 「出来ないだろうね。僕は今、君に嫌われることがいちばん怖い。たまに健康管理の一環で希望者と遊ぶことはあったけど、これからはしない。店の商品には手を出さない。これから君は発情期の期間も短くなるだろう。精通したΩは妊娠へと向けて体が準備を始める。 出来れば今回の発情期で僕は君との子供が欲しいと思ってる。この部屋は僕が持ってる部屋のひとつだ。君の希望するところに住むことにしようと思うけど、どんなところがいい?」 「わからないけど、今はモデルの仕事がしたい。色んな服を着たいし、それに便利なとこ。赤ちゃん産まれたら仕事できなくなる……?」 「仕事の間だけでもシッターをつけてもいいし、僕が面倒を見ても構わないけど、たくさん仕事を詰め込まれたら僕が寂しい。セックスがあってもなくても、一緒にご飯を食べて一緒に寝る、ごく普通の夫婦生活はしたい。」 「……マネージャーに怒られるかな……」 「それは僕もきちんと事務所に行って話をするよ。僕は番の解除をする気もないし、他のαに触らせる気もない。」 予想外な独占欲と勢いに負けてしまいそうになった。

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