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第179話

「今さらなんの話があって、うちと嶺岸ところを勢ぞろいさせた?それになんで君がこんなのと一緒にいるのかな?葉瀬さんはどうした?」 敵対心丸出しの玉妃に川嶋は戸惑う。そんな玉妃にお構い無しにニッコリ微笑んで賢祐は 「一緒に説明したいので、那恵さんもお呼びいただいてもよろしいですか?」 「おまえの言葉が一番信用ならないんだけど?」 「リカさんと呼んでないじゃないですか。今日の僕は無害です」 玉妃は舌打ちをすると那恵を呼ぶ。夢妃と妃那も一緒に入ってくる。 「白石社長、那恵さん、僕ら、番になりました。これまでのことを謝罪しに今日はここに参りました。もう、ご家族に迷惑をかけることもしません。ただ、この子はまだ若く、モデルの仕事も続けたいとのことなので、機会があれば使ってやってください。」 立ち上がり頭を下げる賢祐に釣られて悠真も立ち上がって頭を下げた。 「……はぁ?!一体どんな成り行きであんたらが出会って番になるなんて急展開が起きるわけ?」 「偶然です。僕のとこの従業員にコーヒーを買いに行かせたところ、そいつドン臭くて、彼とぶつかってしまって服にコーヒーをかけてしまったんです。そいつがトロいもんだから、僕が出ていったら悠真が嶺岸さんのパートナーと僕を間違えたんですけど、名前が似てるでしょ?知ってるのか聞こうと思って腕を触ったら発情状態にお互いに入りまして……」 「どんだけ『運命の番』が落ちてんだよ。都市伝説じゃないのかってくらいお目にかかれるもんじゃないと思ってたけどね。」 ふん、と鼻を鳴らして玉妃も呆れ返るような言葉を投げつける。姉たちだって運命を感じて結婚してる訳ではない。それなりの血筋のところから嫁入りしてくる。玉妃はそれに縛られたくなかったからこそ、自分で会社を起こした。 「僕も驚きました。でも、幸せですよ?パートナーが出来ることを想像してませんでしたから。だからこそ、伝えておかなければならないことがあると思いまして。茅妃さんのことです。 彼女が何故帰りたがらないのか、恥ずかしながら、うちの兄に問題があります。発情期になると来るんですよ、店に。きちんと把握してるところが気持ち悪いとも思ってるんですが、だから彼女も諦めようにも諦められない。 本妻として迎えられないなら、愛人としてマンションの一室を与えれば良いのに、とも言ったんですが、兄の嫁がそれを許さなくて。βなんですが色んな意味で強いんです。2人産んでますがふたりともβ。αを産めてないことにもコンプレックスがあるようで。 兄の家では茅妃さんの産んだ男の子だけがαでウチの後継者候補にも上がっています。兄はまだ茅妃さんにもう1人産ませたいと思っているようです。けれど、また産ませて取り上げるようなことをしたら今度こそ、彼女が壊れてしまいます。 兄には申し訳ないですが、アフターピルを飲ませてます。彼女も兄の子を授かりたい、と言ってくれてますが、責任を取る気がない兄の行動に、僕も腹を立てているのは事実です。 なので、僕にはその先が怖くて無理やりにでも飲ませます。社長、僕がしてることは間違ってますか?兄や茅妃さんが望んでるように子供を産ませるべきですか?」 玉妃はため息をついて少し宙を見つめていた。 「正直、あんたとの出逢いは最悪だったけど、そこまで姉さんのことを考えていてくれていたことに驚いてる。次に子供を奪われたら確かに姉の性格では壊れちゃうでしょうね。産まれてきたのがΩなら取り上げられないの?」 白石家は女系で成り立っている。実家の後継者として姉たちが継いでいる仕事もあれば、玉妃のように独立した会社としてやっている異例中の異例もいる。全員がβやΩの婿、もしくは嫁をとる形で迎え入れの家系だ。 α姉妹の中の唯一のΩで生まれた茅妃。彼女も中学に上がる頃には縁談の話がもちあがる。実際、縁談が来ていたのも事実だった。男勝りな玉妃と違って、女性らしさの全てを兼ね備えたような姉だった。大学在学中にパーティという名のお見合いのような場で茅妃を愛人に、と勝手に番にしたのは目の前の男の兄だった。

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