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第180話

「基本的にはどこの家もそうだと思いますが、αが後継者候補にあがります。あんな形の商売ですけど、僕はキャストを守りたい気持ちは大きいつもりです。もちろん、僕の仕事はあの場所だけではないのでつきっきりにはなれません。 身請けの話が出れば準備金を用意してもらって、住む場所も確保された上で一月分の抑制剤、ピル、アフターピルはお渡しして送り出します。Ωの性質上、発情期が来てしまえばどうしても精液が必要になります。望まない妊娠を避ける為には必要になることもあります。 一度番になってしまって、解除されたΩは抑制剤だけでは発情期( ヒート)を抑えられません。精液がないとかなりの苦痛を味わいます。禁断症状にも似た状態です。下手をすれば命に関わるくらいの苦痛で弱っていきます。 発情期中に目を離すと呼吸困難に陥ることもあります。なので、発情期にはなるべくそばにいてあげたい、と思ってますし、僕の店では隠しません。最優先しなければいけないことは、キャストたちが命の危機に陥らないこと。 発情期が来なくなったキャストを待機させて、妊娠を隠して産まれてしまった子がβだった時には、みんなで育てるように協力体制は出来ています。発情期がなければ好きでもない相手と寝る必要は無いですからね。 でもそれからでは新しい働き口なんてないでしょ?だからスタッフも全員Ωなんですよ。 αは後継者候補に、Ωはパイプ作り用に、大概取り上げられてしまいますからね。作った方も把握してるんですよ。 酷い話ですよね。αなら取り上げる、Ωなら利用する、βはいらない、なんて話。僕らのしてることはαを産ませるための事業ではありません。彼らの生活のために料金はいただきます。 でも、αを産む為の使い捨ての為に店が存在してる訳ではないんです。子供を産ませるなら、育てられる環境を整えて生活させるだけのことをしてやればいいのに、とは思いますよ。 僕が管理してる店は金持ちαが対象ですので、安売りはしません。茅妃さんの身請け話も正直多いんですが、本人が了承しません。全てはバカ兄の所為です。本当に申し訳ないと思ってます。僕の力不足です……」 最後は項垂れるように、それまで吐き出せなかったことを一気に話した気分だった。 「……あんたも微妙な立場でいることはよくわかった。姉の気持ちを第一に考えてくれてありがとう。で、あたしはあんたの兄貴と兄嫁、どっちと応戦すればいいのかな?」 「ちょ、ちょっと、玉妃?!」 さすがの那恵も口を挟まずにはいられないセリフを吐き出した。 「全面戦争させたいわけじゃありません。茅妃さんとまずはお話された方が良いのではないでしょうか?彼女を騙してでもその場を作りますよ。僕にはそれくらいしか出来ませんし……」 「……わかった。だけど、その話なら嶺岸を呼ぶ必要はなかったんじゃないか?」 「それは僕の興味本位です。実際にお会いしてみたくて。パートナーさんに。」 「『特殊Ω』を会わせるなんて危険でしかないと思うんだけど?」 「発情期のΩ相手でも、僕は引きずられることなく普通に対応出来ます。だからこそ、この子に発情させられた時には、かなり驚きました。これ以上の衝撃はないと思いますし、今後も悠真を使っていただきたい、というご挨拶も兼ねてます。」 「抜け目のない男だね。」 嶺岸家族を呼ぶと真っ先に浬が入ってきて 「あ……この間のドン臭いひと……」 と悠真を見て呟いた。 「おまえ、相変わらず他人に容赦ないな。」 と玉妃が笑い出す。嶺岸と昶を抱っこした状態で雅が入ると、雅も気付いたらしく 「……あ……ご無沙汰しております。お尋ねいただいた時には冷静な対応を取れず申し訳ございませんでした。」 と頭を下げた。これには全員が面食らった状態で固まる。賢祐からしても雅からしてもほぼ初対面の状態であり、樹からしてもその頃の記憶が欠落しているからだ。

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