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第181話
身長、声、バース性こそ違うものの、赤の他人でここまで造形が似るものなのか、と首を傾げる。2人が並ぶと本当によく似ていた。
「いえ、こちらこそ、あの時は突然押しかけてすみませんでした。インターフォン越しに言われた言葉がやっと今、理解出来ました。」
と微笑み返す。悠真が見間違えるのも無理はない。瞬時に他人と見抜いた悠真も付き合いが浅い割にはよく他人を見ている、ということだろう。Ωの割にβに近い容姿だ。
――『特殊Ω』……番持ちなのにこんなに匂いがダダ漏れなのか。確かに危険ではあるし、こんな子が店にいたら騒ぎになるだろうな……完全に薬漬けでこれでは可哀想と言えば可哀想だ。初めて見たけれど、嶺岸と出会う前まで処女だったのは奇跡としか言いようがない。
「なるほど。社長の仰りたいことはよくわかりました。那恵さんの行動にも説明が着きました。人の巡り合わせというものは面白いものかもしれませんね。」
そう言って手を差し出す。雅はその手を取り握手を交わすと
「今日は、彼と番になった報告に来たんです。でも、彼はまだ若い。モデルを続けたい、ということなので、イメージに合うコンセプトの時には使ってやってください。
それと、僕の受け持ちのひとつに製薬部門があるんですが、そこで『特殊Ω』の研究をさせてもらえないでしょうか?血液提供をお願いすることにはなりますが、もっと効く薬があればいい、と思うことありませんか?
貴方のようなΩの体質の人は今後も現れるでしょう。色々な意味で貴方は恵まれた環境にいたと言っても過言ではありません。白石社長だってそうです。僕を危険因子と捉えて貴方に会わせたくない、と仰いました。
けれど、番持ちであるにも関わらずその匂いは確かに危険です。拒絶反応についてはご存知だと思いますが、αにはなくてもΩには苦しいくらいの反応が出ます。それに貴方には耐えられない気がします。番で発情期状態になれば、番のαには匂いを感じますが、実際、悠真が発してる匂いを嶺岸さんも、その匂いが嫌いな白石社長も感じ取っていない。これが通常です。
貴方は周りに恵まれていますが、通常であれば身の危険があることは間違いないでしょう。特殊Ωの場合、大半が幼少期から囲われてしまうことが多いですが、嶺岸さんのように囲われてないΩの場合、拒絶反応で命を危険に晒すことになるでしょう。」
「匂い消すの?こんなにいい匂いなのに!!」
妃那が反論に出る。玉妃が止めに入ろうとすると、賢祐がそれを静止する。
「妃那ちゃん、Ωのいい匂いを感じるのはαとして当然のことなんだけどね。妃那ちゃんの1番大切になった人が妃那ちゃんにしか匂いを感じないはずなのに、他の人に匂いがわかるようになってたら、お外に出た時に不安にならない?妃那ちゃんだけが好き同士なのに、他の人からも好きって言われたらどう思う?」
「妃那のなのに、って思う……」
「そう。今ね、彼はそういう状態。ママの那恵さんですら匂いを感じるって不思議だと思わない?妃那ちゃんのママはαじゃないよね?」
「……β……」
「普通のΩはね、βの人にも匂いを知られることはほとんどないんだよ。悠真が撮影してた時、Ωの匂いしてた?」
「……してない……」
「じゃあ、今、妃那ちゃんが好きな匂い、というのもわかってるんだけどね?KAITOママだけじゃなくて、同じような理由で困ってるΩがいたとしたらそれを助けてあげたい、っていう話をしていたんだよ。それはダメなことかな?」
「……ダメじゃない」
「うん。好きな人がΩの匂いが原因で死んじゃったら困るよね?」
「……いやだ……」
「だからこそね、匂いが消えることが必要なんだよ?嶺岸パパさんだけに匂いがわかるだけでいいんだよ?妃那ちゃんにはつまんなくなっちゃうかもしれないけど、これからの人に役に立つことなんだよ?わかってもらえたかな?」
「うん。わかった。妃那のわがままだけで死んじゃう人がいるのは嫌だもん。絶対に昶ママ死なないでね?」
「あはは、ずっとは無理だけど、みんなが大人になるまでは生きていたいね。」
永久に生き続けることは人間としては無理だし、Ωはαやβに比べると短命だ。だから、絶対とは言いきれないけれど、せめて子供たちが成長した姿は見たいと思う。
この子供たちの誰かが自分のようなΩと番になったら、と考えたら答えはひとつしかなかった。
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