181 / 193

第182話

「……僕で協力出来ることなら、お手伝いします。」 大学時代に聞かれたモルモットのような興味本位からではない相手であり、付きまとわれる心配のない自分と瓜二つの人を信用してみようと思った。Ωに対しての理解が何よりだった。 「たぶん、あなた以上の症状の人はいないと思います。そのサンプリングから薬を応用出来れば特殊Ωの薬も少しずつですが可能かと思われます。僕の事業の中にはΩの保護施設、と言えば聞こえはいいですが、娼館があります。 発情期のΩの終わりかけ、いや、フェロモン出量が少ない人と同じレベルの匂いを出してると言っても過言ではありません。 ただ、うちの店にいるキャストは1度番にされて解除された薬の効かないΩです。上手くすればそういったΩたちにも効果があれば、Ωの独り立ちも可能になるかもしれません。」 賢祐の中では血液の基本組織は分からないものの、応用する化学式は組み上がっている様子だった。それは玉妃にとっても思いもよらない言葉だった。 「その話が本当なら、姉さんも発情期に悩まされなくても済むと言うこと?」 「もちろん、即座に効果が出るものが発明できるかはわかりません。ただ、可能性がゼロではないということです。嶺岸さんほどの特殊例は未だかつてお会いしたことがなかったんですよ。Ωというだけで政略結婚の道具にされたり、αを産むための愛人にされていたりΩは不遇な人生を歩むことがとても多い。 ただでさえ絶対数少ないΩであるのに、第二性がわかった途端に貧しい家庭では金持ちに売ってしまったり、誰かに目をつけられていて、無理やり番にされてしまうこともない訳ではありません。発情期が最初に来る時期は人それぞれ個人差がありますから、最初の時に被害にあってしまった場合を除いては、Ωを守れる薬になると言えるでしょう。」 そう言われてしまえば断ることなど考えられなかった。自分の血液からそこまでの可能性が生み出せるものなのか?!と思う。確かに『特殊』であることは自分でも認識している。 ――それがこれからのΩの人生が関わってくるとなれば重大なことかもしれない。 自分だって嶺岸に100%信用されているわけではない。意心地の良さは感じてくれてるようだが、子供たちがいて、その責任として今はその位置にいるだけで、2人が触れ合っただけで発情したという話を聞いて、本当の『運命の番』かどうかは、わからなくなってしまった。 ――そう、嶺岸との出逢いの時には先に発情させられてしまったから…… 今回のふたりとは全く状況が違うのだ。 雅自身にとっては『かけがえのない人』に変わることは無い。Ωにはその選択権はないからだ。1度番にされてしまえば、肌を合わせられる人は番のみだ。αに至っては違う。何人も番をもてるのが現状だ。 ――もし、本当の『運命の番』と出会ってしまえば『唯一無二』ではなくなる。 きっと嶺岸は見切りをつけたりはしないが、愛人へと降格するのだと思う。『運命の番』と過ごすための部屋も作るだろう。 他のΩの匂いをベッタリとつけた嶺岸が帰宅した時に冷静でいられる自分が想像出来ない……たぶん傷つくことは間違いないだろう。 そして、自分から作られたその薬を服用してΩであることを捨てる覚悟をしておくべきだろう。新薬に期待を込めて…… 「ひとつ、お伝えしなければならないことがあります。家族の中で僕だけRHマイナスの血液です。たぶん一度にたくさん抜くとなると倒れる可能性がありますので、週に一度、適量を取っていただく形でもよろしいでしょうか?」 雅の言葉に賢祐は少し驚いた表情を見せて 「……血液まで……余計な御足労をかけてしまうことになりますね。もし、少し多めに採取させていただくときには入院できるように手配しましょう。鉄分多めの食事、鉄剤も先に準備させていただきます。以前、献血センターで、マイナスの血液型の方の献血をいただいたことがあるんですが、200ccで気を失われて輸血して戻した、という話がありまして、貴重な血液型だからこそ輸血用の血液もなかなか見つかりません。怪我などには気をつけてくださいね」 「ありがとうございます。」 雅は頭を下げる。嶺岸家でO型自体も雅ひとりだ。嶺岸も浬も昶もRHプラスA型だ。 「万が一、僕にもしもの事があったら、そのまま検体にしてください。その先の医学に役立てるなら、僕は喜んでこの躰を差し出します。」 そう言って薄く微笑んだ。

ともだちにシェアしよう!