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第183話

「……検体になることがどんなことか理解されてますか?貴方にはお子さんがいらっしゃるんですから、それはできません。お子さんたちと二度と会えなくなるんですよ?逢えても数年後、遺骨となって返還される。貴方の最期の姿すら見送れないんですよ?幼いお子さんにとってそんな残酷なことをなさろうとしてるんですか?」 逃げるような言葉は賢祐によって遮られてしまった。どうせ、こんな躰なら役に立ちたい、と思っただけなのに…… いつ来るかわからない『運命の番』に脅えながら『唯一無二』が欲しい樹は家庭を守るだけの出資やマンションも子供たちのために明け渡すだろう。けれど、そこにはたまに顔を出すだけの父親になって…… それなら全てその新しい『運命の番』に任せて消えてしまいたい……幸せだと思っている今の時期に消えてしまいたい…… そんなズルい考えは見透かされているのだろうか……心臓がバクバクと大きく脈打ち、貧血のように顔から血の気が引いていくのがわかる。 幸せなうちに幕引きをしてしまいたいのに、まだ生きろと言うのか…… 「貴方は優秀なプロデューサーだと聞いていますし、うちの悠真を使ってもらわないと。きっといいCMが出来上がると思いますよ。」 「……僕なんてまだまだです。大山さんがいてくれるから……背中を押してくれる人がいて何とか踏ん張ってます。僕らは2人で1人の仕事をしているんです。お互い妥協できない所を出し合って作り上げてます……僕に仕事を教えてくれたのも彼女です。素敵なパートナーです。」 ――何を言ってるんだ?僕は…… 「ねぇ、昶くん?ママが入院したまま帰ってこなくて、昶くんが小学生になって帰ってきたママに次に逢えた時、骨だったらどう思う?」 「……イヤ、ぜったいにイヤ!!」 「さん、そういうことですよ?あなたを必要としてる人は目の前にいる。あなたが何を思ってるか、何を気にしてるのかはわかりませんが、お子さんのためにそのヤケになってることをやめませんか?投げやりになって欲しくて言った言葉ではないんです。ウチの製薬部門でも、杉本さんの体調を重視して研究を進めて行く予定です。仕事にも支障をきたさないように少量の血液で研究出来るとこはしていきます。」 「雅くんらしくない。何かあったらあたしでも那恵でもいい、相談には乗るから」 「……ありがとうございます。僕がこの先のΩのためになるのなら、と思って出しゃばりました。僕みたいなΩに生まれた人が安心して暮らせる薬が開発されるのなら、って思ったんです」 そういう雅の表情は暗い。 「話したくなったら言えばいい。でもいつまでもそんな表情をしてたら子供たちも不安になる。」 玉妃の言葉に子供たちを見ると不安げな表情で見上げていた。膝を着いて子供たちを抱きしめる。今言える精一杯の言葉を告げる。 「……大丈夫、大丈夫だから……ごめんね……」 自分のエゴで子供たちの人生を狂わせては行けない。子供たちが成人して自分も子育てにケリが着いてからでも遅くない。 樹に対する不信感のようなものが積み上がって言ってるのが分かるからこそ辛い。 Ωにとっては一度番ってしまえば、その相手のαがいなければどんどん弱っていってしまう。自分にとっては『唯一無二』なのに、樹にとっての『唯一無二』なのかの確証が持てない。 本物の『運命の番』が現れたら、身を引く覚悟はすでに決めていることだ。 ――どうか、その時には番の解除をして欲しい…… 誰かとシェアするなんて耐えられないし、『唯一無二』と『唯一』を求めていた同士がたまたま出逢って番になって子供を産んで……あの事故があるまでは『唯一無二』を信じて疑わなかった。 なんだろう……?この手のひらにすくった砂が指の隙間から落ちていくような感覚は……

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