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第184話

「……嵐のような話し合いだったな……」 玉妃がボソッとつぶやく。 「……ん……でも、なんか杉本、途中から様子おかしかったの、気になってて……」 「そりゃそうだろ。昶が止めてなきゃ、たぶん自殺を考えていたかもしれない顔してた。何が雅くんを追い詰めてるか、わかるか?」 「話の流れからして、嶺岸さんでしょうね」 「……だろうね。傍から見てたってあれだけベタ惚れの癖に安心させる言葉ひとつかけてやらねぇヘタレだからな、アイツ。 『運命の番』に憧れてたのかもしれないけど、無理矢理番にしたのは自分の癖に、そこは記憶が無いって狡い理由で逃げてやがる。ウチ側の面倒ごとは一気に片付いたけど、嶺岸が雅くんの異変に気づいてればいいけどな……」 「……それは……厳しそう……」 那恵も珍しく弱音を吐き出す。次に雅が壊れたら戻ってこない気がしてならないのだろう。 夫婦や番の域を超えたパートナーであることには変わりない。ずっと2人で仕事をしていく、ということは子供を産む前から2人で決めていたことだ。その証拠に那恵自身、雅が壊れていた間、2人で組んだ企画が通ったもの以外、他のパートナーたちの補助に入っていたものの、新しい仕事には着手していないのだ。 こっそりとピンクとブルーの子供服の立ち上げやコンセプトは大雑把に作っていたが、本格的に動き出したのはテレワークとはいえ仕事に復帰した雅が本格稼働してからだ。 仕事のために子供の出産のタイミングまで合わせたのだから『2人で仕事をする』ことに対してのこだわりは並々ならぬものだろう。無駄な時間を作らない、不慣れな子育ての不明点も2人で話し合っていけばお互いに心強い。 良くも悪くも、玉妃は父親気質で、母親としての資質はない。実際に産んでくれてるのは那恵で、父親的立場にあるのは玉妃だ。子供にも愛情はあるが、それは母性ではない。 2人がαである限り、αとしての教育をさせて、好きなようにさせてやるつもりはあるし、好きなものを与えているのも玉妃の方だ。 那恵には『お金でなんでも買い与えるのは良くない』と言われるが、可愛くねだられたらデレデレしてしまうところなどはまさに父親気質なのだと思う。那恵と出逢い『運命』と位置づけてから自分の子供を産むのは那恵しか考えられなくなった。 けれど、那恵はその自由奔放は性格からなかなかパートナーを限定して作る、という気持ちを持ってはくれなかった。那恵は抱く側も好きな女で抱かれる側になりたい時には、自分のところに来る女だったし、ちゃんとそういう時は事前に排卵日のチェックを怠っていない。 だから、既成事実を作って自分のモノにすることは簡単には出来なかったし、それで夫婦になったとしても、遊ぶことを辞めるとは思えなかった。けれど相棒の『杉本雅』が子供を産む決意をするとその那恵の気持ちを簡単に動かした 『杉本が産むなら、同じタイミングで私も産む。その方がお互いの時間のロスがない』 タイミング的にも、いい時期だったのもあった。もう少し遅ければ高齢出産になるから、それなりの危険度も上がる。けれど、子供はいらない、と言っていた那恵を動かした彼を尊敬せざるを得なかった。感謝という言葉以外見つからない。そして産むなら玉妃の子供だと。 抱くことはあっても、抱かれることに対しては那恵は玉妃以外に躰を委ねたことは無い。 玉妃にだって抱かれるための機能はある。が、『自分の子供を産んで欲しい』という言葉を何度も伝え続けた結果、那恵は玉妃を抱くことはなく、抱かれたい時だけ玉妃を選んできた。 お互いに女性しか愛せない身の上だからこそ、今はお互いをパートナーとして認めあっている。那恵は子供を産んで、さらに強くなった、けれど、それは悪い意味では無い。ほかのセフレとも手を切り、子供と玉妃を愛し、リスペクトしている。 子供服の仕事をさせても、一般企業と同じだけの報酬は出している。独り立ちしてもやっていけるだけの金額でもある。子供たちのものはそれぞれの口座に振り込まれている。将来、そのお金を何に使ってもいいようにだ。働いた分の報酬はきちんと払う。 だから那恵も、不自由な生活をさせている訳では無い。こちらの顔色を伺わなくてもいいだけの生活力はあるのだ。 「今度は玉妃が妙な顔してる。子供たちを不安にさせちゃダメだよ?ちゃんと責任は果たして貰うんだからね?親は2人揃ってないとダメなんだよ?」 珍しく頭を抱きしめられて、その暖かい温もりと伝わってくる穏やかな心音に耳を傾ける。 愛されてる、と伝えてくれているのだろうか? 「……そうだね。あたしたちの大事な娘にはまだまだ色んなことを教えて覚えてもらわないとね。成長が楽しみで仕方ないよ」 クスッと那恵が笑った。

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