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第189話

Ωはαほど体力もなければ、精神的にも強くもない。それは、その性質上にもあるだろう。 地位の高いαほどより良いαを産ませるために複数のΩを囲うことが多い。けれど、所詮は愛人という立場だ。本妻にしてもらえるΩがいても、外で子供を産ませるαもいる。企業が大きければ大きいほど後継問題に直面する。 浬や昶だって例外では無い。本家の中ではαと産まれたものとして兄たちの子供たち同様に後継者候補の一部に組み込まれている。芸能界にすっぽりハマってしまうか、本家の要望に従うか、選ぶのは子供たちだ。樹の場合は物心着く前からカメラの前にいた。母が跡継ぎ候補からわざと外したのだ。 樹は上2人の兄とは年が離れている。帝王学を学ばせられてる長兄次兄を見て、2人より見目の良い樹を芸能界へと送り込んで跡継ぎ抗争から外したのだ。 理由は2つ。年の離れた末っ子の方が上の子供たちより優秀に出来上がっていたこと、簡単に2人の兄を抜いてしまうほどのルックス、知性と愛嬌を備えていたこと、コンプレックスを与えないためだ。 樹でも雅でも、本家の意見に口出しはできない。それが後継者候補でもある。浬、昶がある程度の年齢になった時にその資質が問われるだろう。中でも浬は幼くしてかなりの大人びた面を持ち合わせているし、CMの中では『天使』と評されていた。 その撮影現場に居合わせないからこそ言えることだろう。現場ではカメラアングルから立ち位置まで計算尽くされて子供たちがいかに可愛く映るか、服を強調できるか、撮影メンバーが変わらないのはその要求に即座に応えられる人物しか残らなかった、と言った方がいい。 そういった意味でも、彼は頂点に立つ器を兼ね備えていると言ってもいいだろう。けれど、それは雅に向かって発動している。どうでもいい人間に対しては本当にどうでもいいのだ。 学校でも当たり障りのない付き合いの友達はいるし、1人になることもない。興味がないにも関わらず、周りに人は絶えない。CMで見せてるような可愛い子供を演じていれば、女の子たちは好意を見せるし、男子たちとは少し悪びれた姿を見せれば嫌悪感を抱かれずに済む。 女王っぷりを見せてる夢妃を心酔してる子もいれば反発する女子がいたり、男子からは高嶺の花扱いを受けている。夢妃はどちらかと言えば玉妃に似ている。母親は特別美人という訳ではなく普通の、どちらかと言えば男勝りな女性だ。中身はともかく、玉妃はαである上に上流家系だけあって整った顔をしている。 だからといって浬の好みではないし、浬の心を占めているのは雅一人だ。雅も特別綺麗な顔立ちをしてる訳でもないし、βと言ってもいいくらいΩには見えない、華奢だが、男性的な見た目をしている。でも、秘めてる脆さも見てきている。それだけが理由ではないけれど…… 「…あんなやつ選ばなければ良かったのに……」 チッとつい舌打ちをしてしまう。 「心の声がダダ漏れてるわよ?」 顔を上げると夢妃が目の前に座っていた。 「雅さんのことでしょ?あの父親がいなければあんたは生まれてこなかっただろうし、その見た目でチヤホヤされることだってなかったんだから、感謝はあっても否定はおかしいわよ?」 夢妃の言ってることはド正論ではあるが、気持ちの収集がつかない。 「どうはともあれ、わたしたちは本家からの後継者候補。本家であろうが、玉妃ママの仕事だろうが、背負うことになるんだよ?一人のΩに執着してられる立場ではなくなるし、産みの親なら尚更認められるわけがない。那恵ママに対してそういう目で見たことないか?、その気持ちはわかんないけどさ、お披露目までには諦めた方がいいわよ……それだけ」 そういうと夢妃は自分の席に戻っていった。 言われなくてもわかってる。けれど止められない。雅以上に心を動かされる人物が現れるのだろうか……?

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