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第193話

「コレだよ。何?薬に興味があるの?」 手のひらに乗っている数個の錠剤やカプセルの薬を見つめる。 「いや、ないけど、どんなものを飲んでるのかな?って。体質とはいえ大変でしょ?」 「……子供の頃からだから慣れては来てるかな。でも、いい薬が増えた分、調整が大変だね」 「そんなにコロコロ薬変わるの?」 「僕の血液から作ってもらっている抑制剤をたまに飲むかな。僕自身の血液だから1番害は少ないし、それも効き目がある時と無い時があるからね。そういう時は元の薬を追加して飲むんだ」 「……治験までしてんのかよ」 「そりゃそうでしょ、僕にとったってメリットがあるかもしれない薬の研究をしてくれてるんだから。副反応だって他人が飲むより大きくは出ないのが最大の利点だよ。」 「副反応なんて何が出るのかわからないじゃないか。元が雅さんの血液だとしても他に色々混ざってるんだから絶対に安全なんて言えるの?」 「言っただろ?他の人が飲むよりも副反応が少ないって。全く無いわけじゃないけど、体が不自由になるほどじゃないんだよ。効きが良かったり、なかったり、眠気が多かったりするくらいだから心配ないよ」 そう言っても浬は不満気な表情を隠さない。 「その薬のことだって、自分の為って言うよりも他人の為だろ?今日だって自分がどんな顔色で帰ってきてんだか、わかってないだろ?」 「そんなに顔色悪かった?体調はそんなに悪くないんだよ?少し疲れやすくなるだけで」 浬は溜息をつきながら呆れ顔で雅を見る。 「ぼくらは家族だから心配はする。雅さんはたまに変な暴走をするからこっちが気が気じゃないのはわかってくれる?その時の体調関係なしに同量の血液提供してるでしょ。だから、今日みたいな顔色になるんだ」 「でもね、研究が上手くいけば助かる人も増えるんだよ?」 「例えそうだとしても、雅さんは永久的に生きてるわけじゃない。そんな期限付きの薬になんの意味があるの?自己犠牲が美しいとでも思ってるの?ただでさえαより寿命が短い上に、稀重種である男Ωの貴方が、命を削ってるようにしか見えない。自分を大事にしないなら、その時間をぼくにちょうだいよ……」 「……浬……?それはどう言う……」 「今はそれ以上は言わない。だから寿命を縮めるような真似はするな、ということ!!」 ビシッと言われてしまえば言い返す言葉も見つからない。 「今日は仕事をせずに寝ること!!どうせアイツ帰ってこないならぼくが見張るけど?」 「あはは、添い寝してくれるの?それとも浬が寂しいの?たまにはいいかもね、昶も呼んでみんなで一緒に寝るの。楽しそう」 「体を休めるために寝ろって言ってんのに、楽しんでどうするんだよ……」 こういうことを言う時の浬は酷く大人びて見える。まだ小学生だと言うのに。けれど高学年にまでなってくると、かなり背も伸びてその身長差は埋められていく。昶も小学生になってやっと送迎が楽になってきたところだ。 浬とは真逆の性格の昶は余計なことは言わないけれど、的確に言葉を言う。好きなことには夢中になって、静かにそれを見てはたまに笑っている。家族との時間は大事にしてるのか、リビングにいることが多い。 「兄さん、そろそろしつこいよ?一緒に寝るのは賛成だけど、それは元気な時で良くない?」 「ちゃんと寝るかどうかの確認だよ」 「……そんなに心配なら睡眠導入剤でも仕込めば?強制的に眠れるだろうね」 「いちいち生意気だな」 「誰に似たんだろうね」 α同士だから、なのか子供らしい喧嘩はしない。けれど、たまにこの会話の静かな喧嘩が怖い時がある。もっと子供らしく言い合いも出来ないものだろうか? それともα同士の喧嘩はそういうものなのだろうか?

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