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第194話
『何?突然、うちの子供たちの喧嘩?すごいよ、髪つかみあったり、引っ叩く時もあるけど、モデル業に支障のない場所選んでんの、逆に怖い時あるけどね』
「そうだよね、ウチは喧嘩する時も冷静なんだよ。子供らしくないというか、なんというか……ケンカなのに静かなんだよね。激しく言い合う訳でもないし、掴み合いの喧嘩をする訳でもない、理論対決って言うの?」
『そりゃまぁ、それはそれで大変だね。浬は元々大人びてるし、昶はマイペースなとこあるから、そこは兄弟なんだろうね。上を見て下も育つじゃん?そういった意味ではうちの姉妹は乱暴的かもしれないわ』
「でも子供ってさ、そういう体感することによって覚えることだってたくさんあるはずでしょ?」
『前は現場で叩き合いの喧嘩してたことあったわよ?もう、2人はその域を超えてるんじゃないの?うちは妃那がやかましくしてるだけだし、夢妃は相手にするのが面倒だから、って感じに見えるわよ?』
那恵の言い分もわからなくはないのだが……
『お義姉さんのことについて一生懸命になってくれてることは、玉妃も感謝してると思う。でも、浬の言い分も正当な事だと思うわよ?献血の後って結構、杉本の顔色悪いもん。その日だけじゃないよ?数日あたしが見てても具合悪そうに見えるんだから、子供からしたら心配でしょうよ。最近嶺岸さん、ロケ多いんでしょ?』
ぐぅの音も出ない言葉を放たれては返す言葉を失う。樹が帰宅する機会が減っているのも事実だし、帰宅しても他のΩの匂いをベッタリつけてることも多かった。Ωの役者もいるからおかしなことではないのだが、話す時間も減り、一緒に過ごす時間も減ってきていることも事実で、変な焦燥感を感じてることも確かだ。
帰宅しても、倒れるように眠る日々、会話らしい会話もしばらくしていない。夜も食べてくることが多く、朝、出る前にコーヒーと軽食をマネージャーに渡す程度で、本人はそういった荷物は持たない。
クローバーでの新作撮影は、原案こそ出してるものの、大人サイドはツヴァイの管轄になるから会うことも少ない。避けられてるのかと思うほど、雅が寝てから帰宅するか、雅が寝る準備をしてる間に寝入ってしまう。
――触れ合うのは新婚の時だけなのかな
子供が大きくなり、どうしても目を離せない、という年齢でもなくなってきた。それでも発情期は来るし、その時間や日数も、最早樹の頭には無いのかもしれない。
演技の感覚は思い出してきたようでかなりドラマの仕事も増えてきたし、以前、中断したドラマの再収録も行っている。忙しいのはわかっている。毎日帰宅していた記憶を失う前と違って今は帰宅する日数すら減ってきているような気がする。他に家があるのだろうか……?
避けられてるとしか思えない今の状況を考えると、自分も距離を置かなければならないのか、とすら考え始めている。
――仕事場のベッドで寝るようにしようかな……
仕事の話をしながら、そんなことを思う。一緒に眠ることすら苦痛なのかもしれない……
仕事も溜まってきてる事だわざわざ寝室に行かなくても……どうせ樹と顔を合わせることはほぼほぼないし、問題ないだろう。
『僕は僕のやるべきことをすればいい』
せっかくのリモートワークと子供たちの送迎。食事の準備と3人での食事。樹の分は食べるのか食べないのか分からないから、冷蔵庫に入れて置いて食べてなければ翌日の昼に食べられるものは食べて、食べきれなかった分は冷凍しておけばいい。日数経過次第で子供たちと処分すればいい。
どうしても時間が足りない楽曲を、仕事部屋に設置してあるベッドの枕元にノートパソコンを設置して、イヤフォンで音楽を聴きながらイメージを膨らませていく。慣れてしまえば、その生活の方が何も考えずに済んで、気持ち的にも楽だった。
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