6 / 47
1 : 3
微睡みからオレを現実へ引き戻したのは、強引な手だった。
「愛山城さんッ! 朝礼始まるッスけど!」
「ん、あぁ……ッ?」
肩を強く掴まれ、揺さぶられる。
夢の世界が遠ざかるも、オレはいったいなんの夢を見ていたのか。思い出そうと思案する前に、つんざくような音が鼓膜を震わせた。それは、朝礼を始める前に鳴らすブザーの音だ。
相当ギリギリにオレを起こしたらしいセンを睨みつつ、オレは席を立つ。デスクを挟んだ正面で、オキジョーが困ったように笑いながらオレを見ていた。
各課の報告事項をその課のお偉いさんが発表する中、オレはぼんやりとオキジョーを眺め……夢を思い出す。
あの頃に比べて、オキジョーは大きくなった。同じくらいの身長だったのに、気付けば十センチ以上抜かれている。
饅頭みたいに可愛かったほっぺは、今じゃただの皮だ。
情けなく泣いていたのは別人だったのか、シャンと背筋を伸ばしてお偉いさんを見ているオキジョーの表情は、明るい。朝礼が楽しいとかじゃなく、あのよく分かんねぇ笑顔がデフォなんだ。
まん丸だった目も、今では男らしい細い形になっている。……体も、随分と立派になった。
なんだ、あの胸板と四肢は。子供の頃はもう少し可愛げのある体だったのに、今じゃあモテそうなルックスに変わってやがる。
「ちょっと、愛山城さん。なに沖縄先輩をジロジロ見てるんスか」
思わずオキジョーを眺め続けていると、ファンクラブの過激派みたいなセンが、オレに小声で噛み付いてきた。すかさず、オレは睨みで応戦だ。
朝礼が終わると同時に、センがオレに向かって吠えてくる。
「沖縄先輩の手を煩わせないように俺が起こしてあげたのに、なんなんスかマジで!」
「なまらウゼェ。オキジョー、コイツ黙らせて」
「二人共、静かにしましょうね」
一緒くたに黙らされた。釈然としねぇ。
オレがオキジョーに見惚れているとでも思ったのか、センはご立腹だ。センは相当、オキジョーのことが好きらしい。なんだなんだ、ホモか。偏見はないが、オレを当てウマ的ポジションに設定するのはやめてくれ。
イスに座ったオレとセンが、無言でバチバチと睨み合う。すると全くこの戦いには関係がない、人の女性職員が、オレたちのそばにそっと寄って来た。
「コレ。再来週までに提出お願いします」
そう言って渡されたのは、なんだか小難しいことが書いてある紙だ。オキジョーが女性職員に礼を言う中、オレとセンは渡された書類をジッと眺めた。
「「年末調整……」」
そのまま紙に書いてあることを、センと二人で揃って呟く。
今は、十二月。もうそんな書類の時期だ。確か保険金とかの、控除? とか、そんな申請をするための書類。……だった、気がする。
妙に薄っぺらい紙をしばらく眺めた後、オレは正面に座るオキジョーに視線を移した。
「オキジョー」
「はいはい」
女性職員から貰った紙を、オキジョーの名を呼びながら素早く手渡す。
笑みを浮かべて受け取るオキジョーを見て、センがまたしてもキャンキャンと吠えてきた。
「沖縄先輩! あんまりこの人を甘やかしたら駄目ッスよ!」
なんなんだこの後輩は。仮にもオレは先輩だってのに、まるで友達みたいに扱いやがって。
……いや、まぁ。変に敬われるのも、期待とやらには応えてやれないのでメイワクだが。
ともだちにシェアしよう!