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 センの鳴き声に、オキジョーは笑顔で応対した。 「メイはこの書類を書けませんから、僕が代わりに書いてあげた方が効率的なんですよ」 「そうだそうだー。オキジョー、もっと言ってやれー」 「あぁぁもうッ! 愛山城さんには俺が書き方を教えるッス!」 「だ、そうですよ? どうします、メイ?」  おいおい、センが余計なことを喚き出したぞ。  渡した書類をオレに返そうとするオキジョーを眺めて、オレはふいっと視線を逸らす。 「メンドくせぇ、却下。オキジョー、代わりに書いてくれ」 「ですって。どうします、森青君?」 「ちょっと愛山城さんッ!」  今日のセンはよく吠える。だがな、セン? 自慢じゃないが、オレは本当にその用紙の記入をしたことがないから、書き方なんざ知らんぞ。  そしてもうひとつ決定的なのが、そもそもオレは自分が契約している保険を把握していない。たぶん部屋を探せば一年で保険料をいくら払ってるか書いてるハガキがあるだろうが、そんなもんどこにしまってるかなんて、知らん。  つまり、この話題の結論。それは【オキジョーに任せるのが吉】だ。完全なるQEDというやつだな。  だが勿論そんなことを説明するのはメンドウなので、閉口する。 「そういうの、沖縄先輩にとって負担なんだなって思わないんスか!」 「オキジョーにそう言われたら思うかもな」 「沖縄先輩は優しいから口にしないだけッス!」 「そーなんだー」  チラッと、オキジョーに視線を送ってみた。その視線だけで、オキジョーはオレがなにを言いたいか、察してくれたらしい。 「森青君。別に、僕は無理強いされてるわけじゃないですよ? 好きでやっているんです」 「だとしても! この人は自立すべきッスよ!」  だからオレはセンパイだぞ。なんだその、我が子の教育方針会議みたいな会話は。  そもそもオレとオキジョーはアラサーだぞ。自立ってなんだよ、自立って。  背を丸めてパソコンの電源を付けたオレを指さして、センがオキジョーに力説し始めた。 「──沖縄先輩が彼女と続かない理由! 愛山城さんのせいなんスよ!」  ……はっ? え、なに。どういう話題の変わり方をしたんだ? 理解に苦しむ。  という顔をオレがしていると、案の定……オキジョーもオレと似たような顔をしていたではないか。 「そ、れは。……いったい、どういう根拠が?」  当然、オキジョーが真意を確認する。 「愛山城さんが沖縄先輩にベッタリだから、沖縄先輩の彼女はみーんな離れていくんス! 根拠は元カノさんたちに訊いたら分かるッスよ!」  そんなこと、初めて知ったんだが。と言うか、なんだ。  ──そもそもオキジョー、カノジョいたのか。この驚きが、そこそこ大きい。  ……いや、今はいないっぽい、のか? どっちでもいいけど。  どうやらオキジョーの元カノとかいう奴等は、オレがオキジョーにベッタリ? だから、オキジョーと別れるらしい。……へぇ? 意味分かんねぇ。 「僕がメイと彼女で二股をかけてるという意味ですか?」  センの言葉に、オキジョーがそれっぽい理由を言っている。  なるほど、そういう風に見られてるのか。さすがオキジョー、頭の回転が速い男だ。……いや、ヤッパリ分かんねぇ。 「そ、そこまでハッキリは言ってないッスけど……そんな感じッス」  そしてオキジョーの考えは、あながち間違いじゃなかったらしい。これには、道民のオレも堪らず『なんでやねん』と言いたくなった。

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