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 オキジョーには、妹がいた。沖縄香って名前で、オレらの五つ年下。  どんくさくて不器用で、取り柄と言えば笑顔が可愛いくらいの……ジジババから『めんこい』って言われるような、そんな子供。  オレはオキジョーと幼馴染で仲が良かったから、当然カオリとも面識があった。お互いガキだったし、男とか女とか関係なく三人で遊んだりもしたくらいだ。……比較的、仲良し。  ──しかし、そんなカオリが死んだのは【大雪の日】だった。  前がよく見えない中、猛スピードで走っていた車にカオリは撥ねられたらしい。それを知らされたのは、オレとオキジョーが一緒に遊んでいる時だった。  面倒見が良くて妹思いだったオキジョーは、オレの想像以上に落ち込んだ。  オレは【身内が死んだ】なんて経験が無かったし、そもそも一人っ子だから、オキジョーの気持ちを百パーセント理解はしてやれなかった。 『香……香、なんで……なん、で……ッ』  子供相手に思うのも変だけど、子供みたいに泣くオキジョーを見て……オレはどうしていいのか、分からなかったんだ。  モチロン、オレもショックだった。猛烈に悲しかったけど、人間ってのは不思議な生き物だ。自分より狼狽えてる奴を見ると、なぜか冷静な気持ちになった。  思い浮かんだ言葉は、なんともチープ。『大丈夫だよ』やら『元気を出して』やら。当時のオレが反射的に思い浮かべられる言葉なんて、その程度だ。  しかしそんな言葉、言えるわけがない。子供ながらに『それは無責任だ』と分かっていたからだ。  だけどオレは、どうしてもオキジョーに『泣かないで』と言いたかった。  けれど、それだけを伝えるのはダメだとも分かっていたから、必死に言葉を探したさ。  冷静だったけど、気持ちはどこか焦っていて……。だからオレは、どこまでも正解に近い間違いを告げてしまった。 『──オレをカオリの代わりにして。だから、オキジョーは泣くのをやめてくれ』  普通に考えて、オレはカオリになんてなれない。無責任なことを言わないよう心掛けたくせに、口から出たのはなによりも無責任な言葉だったのだ。  でもそれが、蹲りながら泣きじゃくるオキジョーに伝えられる最善の答えに思えた。  ──最悪な慰めだったけど、オキジョーは顔を上げたくれたのだから。  戸惑った表情を浮かべていたけれど、最後には涙を止めて。オキジョーはオレを、強く強く抱き締めた。  そして、何度も何度も、囁いたのだ。 『茨君は、僕が守る……っ。香の分も、絶対ぜったい……僕が、守る……ッ』  少しでも、心の隙間を埋められたら。今思うとあまりにもちっぽけで、大それた願いだ。  物理的に考えてカオリの代わりにはなれないけど、カオリみたいに世話を焼かれる対象になれたなら。それだけでも、オレがオキジョーのそばにいる意味がある。……そんな気がしたんだ。  いつからかオキジョーはオレのことを『茨君』じゃなくて『メイ』って呼ぶようになった。それはたぶん、その方が女っぽいからだろう。本人から直接言われたわけじゃないが。  少しでもカオリに近付くためなら、呼び方だって変わっていい。オキジョーがオレを見る目が必要以上に優しくなったって、そんな違和感くらいすぐに慣れてやる。  だけど……模範解答のように思えた提案が、オキジョーを【オレとカオリに縛り付け続ける呪い】だったなんて。  その時は、気付けるはずもなかったのだ。

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