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 しがみつくと、少し浮いたオレの背に腕が回される。まるで、抱き締め合うかのような体勢だ。 「オキ、ジョ……っ。オキジョー……ッ」 「どうしました、メイ? つらい、ですか?」 「平気だ、ッつってんだろ……ッ」  いつも、オキジョーは優しい。  オレは、カオリから一時的に目を背けさせることしかできない矮小な男だ。なのに……そんなオレに対して、親しき中にもなんとやらってやつを体現してくる。  こんな異常で異様な行為の最中でだって、オキジョーは優しさを忘れない。 「メイの体、凄く熱いです。……寒さは、感じませんか?」 「暑いくらいだっつの……ッ」 「愚問でしたね、すみません」  ブツを硬くして、その立派な熱で親友を抱いているくせに……。なんでいつも、コイツはこんなに余裕なんだよ。  ──こっちは、いつも……いっぱいいっぱい、だっつのに。  広くて硬いオキジョーの背に、軽く爪を立ててみる。 「オキジョーの、あほ。焦らすな、バカヤロウ……ッ」  何度も抱かれてなにも感じないほど、オレは不感症じゃない 違和感は払拭されねぇけど、慣れってモンもあるんだ。  雑談なんて、いつでもできる。だから、今じゃなくていい。  ──今は、カオリのことを忘れるくらいオレのことだけ考えさせるのが先決だ。 「メイ……っ。少し、激しくしますよ……ッ」 「ん……ッ! は、ァ……あッ」  女を抱くみたいに優しくするオキジョーが、憎たらしい。  オレは男なんだから、少し手酷くされたって泣かねぇ。それくらい、優秀なオキジョーなら分かるはずだ。 「ん、んんッ、ァあ……ッ!」  大事なのは、オキジョーの頭ン中をセックスでいっぱいにすること。オレの快楽云々は些事だ。  ──なのに毎回、オレを感じさせようと尽力するのは……なんなんだよ。  * * *  ティッシュやら使用済みのゴムやらを片付けたオキジョーは、手早く部屋着を身にまとう。  腰を振ってオレよりも体力を消耗したはずなのに、随分と身軽だ。 「先にお風呂入りますか?」 「いや、寝たい」 「早起きしてお風呂に入ると約束するのでしたら、構いませんけど?」 「うへぇ、ムリに決まってるべや……」  少し離れたところから聞こえるオキジョーの声に、オレは毛布に包まって返答する。  きっちりオレのこともイかせたもんだから、疲労感がヤベェ。ついでに仕事終わりってのもあるし、なまら眠い。  だが当然、オキジョーはそれを良しとしない。 「じゃあ、先にお風呂ですね。浴槽にお湯を張ったら起こしますから、少し休んでいてください」 「んぅ。……りょ」  まるでさっきのセックスがウソみたいに、オキジョーは普段通りだ。それは毎度のことだし、別に不満はない。  声も、動きも、なにもかも……今のオキジョーはすっかり、いつも通りだ。 「オキジョーの幸せ、か……」  ふと、センの言葉を思い出す。  オレの世話をさせて、カオリから目を背けさせる。  オレを抱かせて、一時的にカオリを消す。  きっとオキジョーに必要なのは、カオリの死を受け止めたうえで……真っ直ぐ生きる力だ。その道筋を立ててやるのが、あの日……オレがやるべきことだった、はず。  だけどオレがオキジョーに与えた道は、誤魔化すだけでなんの解決にもならない卑怯なものだった。 「幸せって、どうしたら与えてやれるんだろうな」  分かる人がいるのなら、是非とも教えてほしいものだ。うつらうつらと意識を手放しかけつつ、オレは心の中でぼやいた。 1話【オキジョーという男】 了

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