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2話【アラサーの自立】 1

 翌日、朝礼が終わった瞬間のことだ。  オレは正面に座るオキジョーに、パッと手を伸ばした。 「──オキジョー、年末調整の紙くれ」 「「──えっ?」」  オレの言葉に驚いたのは、オキジョーだけじゃない。隣に座るセンまでもが、目を真ん丸にして驚いている。  この話題にあまり関係がないセンはオロオロとした様子でオレとオキジョーを交互に見やっているが、それはムシ。オレはムスッとした顔のまま、オキジョーに手を伸ばし続ける。 「え、っと? すみません、メイ。まだ書き終わってないの、ですが?」 「いーから。……保険の紙もくれ」  説明がめんどいから、それ以上はなにも言わずに手を伸ばし続けた。  要領を得ないといった顔をしたオキジョーだったが、紙を渡せば話が進むと気付いたのだろう。カバンの中に手を入れて、クリアファイルにしまっていたペラい紙とハガキを取り出した。  依然として怪訝そうな表情を浮かべるオキジョーからクリアファイルを受け取ると、オレは視線をセンに向ける。  そしてそのまま、オレは受け取ったばかりのクリアファイルをセンに突き出した。 「──セン、書き方教えて」 「「──えっ?」」  オレの言葉に、またもやオキジョーとセンが言葉を被せる。なんだよ、そのシンクロ率。仲良しかっつの。  年末調整に必要な資料が一式入ったクリアファイルとオレの顔を見て、センがマヌケな顔を浮かべている。 「えっ、お、俺ッスか? 沖縄先輩じゃなくてッスか?」 「おう」 「それは別にいいんス、けど……な、なんで、急に? 昨日は沖縄先輩に書いてもらうって言ってたじゃないッスか?」 「あァ?」  そんなの、少し考えたら分かるだろうが。……いや、分かんねぇから訊いてきてんのか。  理由は、単純。昨日、センがあんなこと言ったからだろうがよ。 『沖縄先輩の幸せを考えるなら、愛山城さんは自立するべきッス!』  オレとオキジョーは、親友だ。それは、カオリが死ぬ前からずっとそう。  だけど、少しずつ歪んできてるのは……確実に、オレのせい。オレがオキジョーを助けられないからだ。  オレが、間違っているくせしてオキジョーを救った気になったのが、全ての原因だろう。  しかし、それを今さら全部無かったことにはできない。だからオレは、今からできることを一晩中考えた。  思い付いたのは、なんとも小さな方法。【カオリの代わりとしてオレの世話を焼かせている現状を変える】ものだった。  一番手っ取り早い行動は、オレがアパートを出て一人暮らしをするということだが……それは到底、ムリだろう。っつーか、絶対ムリ。ヤダ。  だから、オレはオレにできる範囲で少しずつオキジョー離れをするしかない。  それが、オキジョーの正しい幸せに繋がるのなら。オキジョーはオレの、親友だから。  ……っつー理由をいちいち説明するのは、メンドくせぇから割愛。 「オレが書き方分かんないっつったら、センはなんて言った?」 「お、俺が愛山城さんに教えるッスって……」 「したっけ、責任取るのが筋ってもんだべ」  もう一度、センに向けてクリアファイルを突き出す。  センはやたらとモダモダしているが、観念したのか納得したのか……クリアファイルに手を伸ばし始めた。  すると──。 「──待ってください、メイ」  今度は、オキジョーが口を挟んできたではないか。

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