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難なく書類に必要事項が記入でき、午後からの仕事もそこそこ頑張った。
いつもはオキジョーが二時間置きくらいにコーヒーを淹れてくれるが、今日は全部センに頼んだ。
プリンターで書類を印刷したら、いつもは気付いたオキジョーが取ってきてくれるけど、今日は全部センに取らせた。
よし、オキジョー離れが着々と進んでいる。カンペキだな。
「──愛山城さん、今日のはいったいなんなんスか……っ!」
終業を知らせるブザーが鳴った後、センが疲弊した様子でそんなことを言ってたけど、それはムシだ。
当然定時で帰宅するオレの上着を、オキジョーがロッカーへ取りに向かう。
「オキジョー、待って」
「メイ? どうかしましたか? ……あっ、お手洗いですか?」
「違う。……今日から、自分で取りに行く」
オレの言葉に、オキジョーは目を丸くした。なぜだか今日は、そんな顔をしたオキジョーばっかり見てる気がする。
「本当にどういう心境の変化ですか?」
「いろいろ」
「少しくらい説明してくれたっていいじゃないですか」
お前の幸せを考えた結果、自立しようと思いました。……なんてダッセェこと、言えるわけねぇべや。
ロッカーからコートを取り出し、袖を通す。そのままオキジョーと並んで外へ出ると、辺りは雪が降り込めていた。
「また雪ですか。冬は困りますね。せっかく今朝も除雪したのに、明日もしないと……」
「あー、除雪かー……」
除雪の手伝い……は、自信が無いぞ。早起きは苦手だ。
やはりオレには、いきなりオキジョーが抱えている全部の負担を減らしてやることはできない。少しずつ自立しよう。
エンジンスターターをかけていたらしい車に乗り、オキジョーが再度、エンジンをかける。
助手席に座ってから、オレは運転席に座ったオキジョーを見つめた。
「帰り、コンビニ寄って」
「コンビニですか? 別にかまいませんけど……なにか欲しい物でも?」
「晩飯」
シフトレバーをDに入れようとしたオキジョーの手が、動きを止める。
「今日はコンビニ弁当の気分、ということですか?」
「や、これからずっと」
「ずっと……? それは、どうしてですか?」
「手間、減るだろ」
特に趣味も無いオレは、オキジョーと生活費を折半している以外では金を使わない。つまり、金ならそこそこある。
自分で食いモンを調達すれば、オキジョーは一人分の料理を作ればいいだろ? オレの分、楽ができるはずだ。
シフトレバーに添えられたオキジョーの手を、何気無く眺めながら答える。しかしなぜか、その手は依然として動かない。
「手間、ですか? それは、誰の──僕の、ですか?」
わざわざ肯定するのは恥ずいので、閉口。
するとオキジョーが、ハッとした様子で呟く。
「もしかして、今日のはずっとそういう意図で……?」
ウソだろ、今さらかよ。……と口に出すほどでもないので再度、閉口。
それを無言の肯定と受け取ったらしいオキジョーへ、視線を向ける。
──そして、今度はオレが目を丸くした。
「──なんだ……っ。そう、だったんですか……っ」
ハンドルに添えられていると思った右手は、オキジョーの額を押さえていたのだから。
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