15 / 47

2 : 3

 難なく書類に必要事項が記入でき、午後からの仕事もそこそこ頑張った。  いつもはオキジョーが二時間置きくらいにコーヒーを淹れてくれるが、今日は全部センに頼んだ。  プリンターで書類を印刷したら、いつもは気付いたオキジョーが取ってきてくれるけど、今日は全部センに取らせた。  よし、オキジョー離れが着々と進んでいる。カンペキだな。 「──愛山城さん、今日のはいったいなんなんスか……っ!」  終業を知らせるブザーが鳴った後、センが疲弊した様子でそんなことを言ってたけど、それはムシだ。  当然定時で帰宅するオレの上着を、オキジョーがロッカーへ取りに向かう。 「オキジョー、待って」 「メイ? どうかしましたか? ……あっ、お手洗いですか?」 「違う。……今日から、自分で取りに行く」  オレの言葉に、オキジョーは目を丸くした。なぜだか今日は、そんな顔をしたオキジョーばっかり見てる気がする。 「本当にどういう心境の変化ですか?」 「いろいろ」 「少しくらい説明してくれたっていいじゃないですか」  お前の幸せを考えた結果、自立しようと思いました。……なんてダッセェこと、言えるわけねぇべや。  ロッカーからコートを取り出し、袖を通す。そのままオキジョーと並んで外へ出ると、辺りは雪が降り込めていた。 「また雪ですか。冬は困りますね。せっかく今朝も除雪したのに、明日もしないと……」 「あー、除雪かー……」  除雪の手伝い……は、自信が無いぞ。早起きは苦手だ。  やはりオレには、いきなりオキジョーが抱えている全部の負担を減らしてやることはできない。少しずつ自立しよう。  エンジンスターターをかけていたらしい車に乗り、オキジョーが再度、エンジンをかける。  助手席に座ってから、オレは運転席に座ったオキジョーを見つめた。 「帰り、コンビニ寄って」 「コンビニですか? 別にかまいませんけど……なにか欲しい物でも?」 「晩飯」  シフトレバーをDに入れようとしたオキジョーの手が、動きを止める。 「今日はコンビニ弁当の気分、ということですか?」 「や、これからずっと」 「ずっと……? それは、どうしてですか?」 「手間、減るだろ」    特に趣味も無いオレは、オキジョーと生活費を折半している以外では金を使わない。つまり、金ならそこそこある。  自分で食いモンを調達すれば、オキジョーは一人分の料理を作ればいいだろ? オレの分、楽ができるはずだ。  シフトレバーに添えられたオキジョーの手を、何気無く眺めながら答える。しかしなぜか、その手は依然として動かない。 「手間、ですか? それは、誰の──僕の、ですか?」  わざわざ肯定するのは恥ずいので、閉口。  するとオキジョーが、ハッとした様子で呟く。 「もしかして、今日のはずっとそういう意図で……?」  ウソだろ、今さらかよ。……と口に出すほどでもないので再度、閉口。  それを無言の肯定と受け取ったらしいオキジョーへ、視線を向ける。  ──そして、今度はオレが目を丸くした。 「──なんだ……っ。そう、だったんですか……っ」  ハンドルに添えられていると思った右手は、オキジョーの額を押さえていたのだから。

ともだちにシェアしよう!