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にこやかに、爽やかに、優しく。オキジョーの物腰は、いつもとなんら変わらない。
告白されたんだったら、もうちょっと態度に出るモンじゃないのか? オッケーしたなら浮かれたり、断ったんなら申し訳なさそうにしたりとか……。
こんなの、どう答えたのか判断がつかねぇだろうが。
「メイ? どうされました?」
イスに座ったオキジョーが、怪訝そうな表情でオレを見ている。
「僕の顔に、なにかついていますか?」
相変わらず、どっか抜けたことを真剣に訊いてきやがる奴だ。天然め。
……そうだ。オキジョーが普段と変わらないなら、告白云々は大した話じゃないんだろう。
そう思い、オレは口を開く。
「……ノナガサンって人と、付き合ってんの?」
こんなの、世間話だ。……世間話の、はず。
オレの問いに、オキジョーは照れくさそうにはにかんだ。
「──えぇ、先ほど。……メイにこういう話をするのは、なぜだかむず痒いですね」
照れくさそうにはにかんだオキジョーは、腕をモゾモゾと動かしている。たぶん、パソコンの電源を入れたりしてるんだろう。
……ヤッパリ、普段通りだ。オキジョーは昨日となにも変わらず、いつも通りのオキジョーだった。
──だけど、今のオキジョーにはカノジョがいるんだよな……?
今までも、オキジョーにはカノジョがいたらしい。ただオレが、知らなかっただけ。
……でも、今は知ってる。
「へ、へー? ……オメデト」
「ありがとうございます」
この、一週間。なんとなく、惰性で『とりあえず自立に向けてのんびり頑張るか』くらいのノリで、センに色々やらせてきた。
だけど、のんびりじゃダメなのかもしれない。今のままじゃ、ダメなんだ。
カオリの死に対して、オキジョーが泣かないように、オレはそばにいた。
──しかし、そのポジションは……オレじゃなくたって、いいんだ。
「……あのっ、愛ざ──」
不意に、センに呼ばれた気がしたのだが。
だけどその声は、朝礼前に鳴らされるブザーの音で掻き消された。
* * *
センに訊いて知ったが、ノナガサンって人はそこそこいい女らしい。
見てくれは上々。仕事もできるし、器量もある。その証拠に、今日は何度ノナガサンをチラ見しても、笑顔だった。……笑顔の理由が【オキジョーと付き合えたから】なのかは、知らねぇけど。
とにかく。端的に言えばノナガサンって人は、オキジョーと一緒に居ても遜色ない感じの女性だってことだ。
「メイ、帰りましょうか」
終業後、上着を置いているロッカーに向かうべく、オキジョーがオレを呼んだ。
余談だが、最近のオレは自立すべく、尚且つ先日の宣言通り、自分の上着は自分で取りに行っているのだ。つまり、オレたちは並んでロッカーに向かっているということで。
隣に立ったオキジョーを見上げて、ポツリと呟く。
「あのさ、オキジョー。……その、さ」
「どうしました? なんでも言ってください」
「そうか? じゃあ、えっと……ノナガサンって人は?」
「野長さん、ですか? あそこで談笑をしている、一番背の高い女性が野長さんですよ」
「や、そうじゃなくて」
人にそこまで関心は無いけど、さすがに覚えた。あっちで他の女職員と喋ってるスタイルのいい長髪女が、ノナガサンだろ? 今日は何回チラ見したと思ってんだよ、分かるっつの。
だから、つまり……オレは『どれがノナガサンか』を、訊きたいんじゃねぇ。
「一緒にいなくていーのかって意味」
「野長さんとですか? どうしてです?」
「ハァ? カノジョって、そういうモンだろ?」
カノジョなんて生まれてこの方いたことがないし、そもそもほしいとも思ったことがないから、コレは圧倒的偏見だ。
なのにオキジョーが、あまりにも驚くもんだから。……オレは自分の価値観が、不安になってきたぞ。
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