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どうやら、オレの価値観ってやつはなにかが違うらしい。
「不思議なことを訊きますね。今までだって、メイと一緒にいたでしょう?」
「う、ん?」
「それは、野長さんが相手だとしても変わりませんよ」
なるほど? ……つまり、どういうことだ?
今までオレは、オキジョーにカノジョができても知らなかった。それはオキジョーがずっとこんな調子で、カノジョよりオレの世話焼きを優先してたから……だよな?
そこでやっと、センの言っていたことを理解する。
『沖縄先輩が彼女と続かない理由! 愛山城さんのせいなんスよ!』
『愛山城さんが沖縄先輩にベッタリだから、沖縄先輩の彼女はみーんな離れていくんス!』
ゆっくりでいいと思っていた、オレの自立。
だけど、本当にダメなんだ。このままじゃ、オキジョーはカノジョを優先できない。
──オキジョーの幸せに、オレは邪魔。
過去の悲しみ をズルズルと引きずらせているだけでなく、せっかくできた幸せな 未来すら、ぶち壊してるなんて。
……そんなの、知らなかった。
「メイ?」
立ち止まったままのオレを、歩き始めたオキジョーが振り返る。
──ダメだ。このままじゃ、ダメなんだよ。
顔を上げて、オレは辺りを見回す。すると、帰り支度を始めているセンを見つけた。
立ち止まっているオレたちに気付いたらしいセンは、すぐにオレたちの方へとトコトコ近寄ってくる。
「沖縄先輩に愛山城さん? 二人共、どうしたんスか? いっつも定時になったら即帰ってるのに」
「いえ、そうしたいのですがさっきからメイが……」
オキジョーが返事をし終わる前に、センへ近付く。
そしてオレは、センの腕を掴んだ。
「──セン、一緒に帰ろ」
「「──はいっ?」」
疑問符を浮かべたのは、センだけじゃない。
「えっ? いや、あの、メイ? なにを、言って……?」
オキジョーが疑問を抱くのは、当然だと思う。今までオレは一度も、こんなことを口にしたことがないんだから。
だけどオレは、オキジョーには幸せになってもらいたい。
「オレはセンに送ってもらう。だからオキジョーは、ノナガサンとどっか寄ってきたらどうだ?」
きっとオキジョーなら、オレの真意に気付くだろう。この前『負担をかけたくない』って話はしたんだから。……きっと、分かってくれるはずだ。
オレの言いたいことが分かったのか、オキジョーは戸惑ったような顔をして、オレとセンを見やった。
「もしかして、僕に気を遣っているのですか? そんなこと、しなくて大丈夫ですよ。今までだってそうだったじゃありませんか」
今までと、同じ。オキジョーの言い分は、なにも変じゃない。
今までは知らなかっただけで、カノジョがいてもオレを優先してくれていた。それがオキジョーの中じゃ、これからも同じなのだろう。
──だから【オレが】変えたいんだよ……ッ。
「──それじゃダメだッ!」
想定以上の怒鳴り声に、二人だけじゃなく他の職員もオレを見た。……気がする。
それでもオレは、どうにかオキジョーをノナガサンの方に行かせたくて。センの腕を引いて、ムリヤリ歩き始めた。
……なぜだかまるで、逃げるように。
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