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しっかりとロッカーから上着を取り、外へ出た瞬間。……オレは即座に、呟いた。
「──セン、車」
「──横暴すぎないッスかね!」
仕方ねぇだろ。オキジョーの車で通勤してるんだから、こちとら移動手段がねぇんだよ。
最近チマチマとオレの世話を焼いている──もとい、オレの手によって焼かされているセンは慣れてきたのか、文句を言いつつ車の停めてあるところまでオレを案内する。
すぐに助手席へと腰を下ろすも、オレは体を縮こませるしかなかった。
「うへぇ、しばれる……」
「文句言わない! 我慢してくださいッス!」
どうやらエンジンをかけていなかったらしく、車内は冷え切っていた。
こんな時、オキジョーなら事前に車の中を暖めて──と考えかけて、首を横に振る。
……たぶん、これでいい。このくらい強引に離れてやらないと、オキジョーはオレを甘やかす。そうなるように、オレがしてしまったんだ。
「ほんと、どうしたんスかマジで。かなり強引に沖縄先輩置いてきちゃいましたけど、良かったんスか?」
「センはどー思う?」
「いや、俺に訊かれても……」
頼りにならねぇ後輩だべさ。これが間違いなワケねぇだろ。
そもそも、センが言ったことじゃねぇか。こちとら、真剣に自立しようとしてんだぞ。褒めろや。
……今後、オキジョーは幸せな家庭を築く。その相手がノナガサンなのか、それとも別の女性職員なのか、全然予想外の女なのかは分からない。
なんにしても、分かることはひとつ。……そこに他人 は、必要ないということだけ。
そこでふと、オレは大切なことに気付いた。
「セン、ヤバい。なまらヤバい」
「なにがッスか?」
「オレ、カギ持ってねー」
げんなりした表情で、センがオレを見ている。
そして突然センが、ワッと喚き始めた。
「いやなんで飛び出して来たんスかマジでッ!」
「うわっ、びっくらこいた。……いきなり吠えんなよ」
カギのことまで考えてなかったんだから仕方ねぇだろうが。いちいち細かい後輩だな、マジで。
「あー……どっか、メシでも行くか?」
「財布は持ってるんスか?」
「サイフ……」
「なんスかその『初めて聞いた単語です』みたいな顔は! 後輩に奢らせるってどういう神経してるんスかマジでッ!」
そういうのは全部オキジョーが管理してるんだから、仕方ねぇだろ。
一先ず、明日になったらカギとサイフのことを相談しよう。これからはもっと、ノナガサンとの時間を作らせないといけないんだから。
……それで、いいんだよな?
「じゃあ、今度どっか連れてってください。それでチャラにするッス」
「ハァ? 外食好きじゃねぇから現金で返すわ」
「横暴すぎッスッ!」
結局その日の晩メシは適当な定食屋を選んだ。
そしてセンの運転はどことなく危なっかしくて、おっかなかった。路面が凍ってるから仕方ねぇけど、オキジョーの運転テクニックを痛感した気がする。
それと、定食屋で頼んだメシより毎日食ってるオキジョーの作ったメシが無性に食いたくなったのは、なんでだろうな。
2話【アラサーの自立】 了
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