20 / 47

2 : 8

 しっかりとロッカーから上着を取り、外へ出た瞬間。……オレは即座に、呟いた。 「──セン、車」 「──横暴すぎないッスかね!」  仕方ねぇだろ。オキジョーの車で通勤してるんだから、こちとら移動手段がねぇんだよ。  最近チマチマとオレの世話を焼いている──もとい、オレの手によって焼かされているセンは慣れてきたのか、文句を言いつつ車の停めてあるところまでオレを案内する。  すぐに助手席へと腰を下ろすも、オレは体を縮こませるしかなかった。 「うへぇ、しばれる……」 「文句言わない! 我慢してくださいッス!」  どうやらエンジンをかけていなかったらしく、車内は冷え切っていた。  こんな時、オキジョーなら事前に車の中を暖めて──と考えかけて、首を横に振る。  ……たぶん、これでいい。このくらい強引に離れてやらないと、オキジョーはオレを甘やかす。そうなるように、オレがしてしまったんだ。 「ほんと、どうしたんスかマジで。かなり強引に沖縄先輩置いてきちゃいましたけど、良かったんスか?」 「センはどー思う?」 「いや、俺に訊かれても……」  頼りにならねぇ後輩だべさ。これが間違いなワケねぇだろ。  そもそも、センが言ったことじゃねぇか。こちとら、真剣に自立しようとしてんだぞ。褒めろや。  ……今後、オキジョーは幸せな家庭を築く。その相手がノナガサンなのか、それとも別の女性職員なのか、全然予想外の女なのかは分からない。  なんにしても、分かることはひとつ。……そこに他人(オレ)は、必要ないということだけ。  そこでふと、オレは大切なことに気付いた。 「セン、ヤバい。なまらヤバい」 「なにがッスか?」 「オレ、カギ持ってねー」  げんなりした表情で、センがオレを見ている。  そして突然センが、ワッと喚き始めた。 「いやなんで飛び出して来たんスかマジでッ!」 「うわっ、びっくらこいた。……いきなり吠えんなよ」  カギのことまで考えてなかったんだから仕方ねぇだろうが。いちいち細かい後輩だな、マジで。 「あー……どっか、メシでも行くか?」 「財布は持ってるんスか?」 「サイフ……」 「なんスかその『初めて聞いた単語です』みたいな顔は! 後輩に奢らせるってどういう神経してるんスかマジでッ!」  そういうのは全部オキジョーが管理してるんだから、仕方ねぇだろ。  一先ず、明日になったらカギとサイフのことを相談しよう。これからはもっと、ノナガサンとの時間を作らせないといけないんだから。  ……それで、いいんだよな? 「じゃあ、今度どっか連れてってください。それでチャラにするッス」 「ハァ? 外食好きじゃねぇから現金で返すわ」 「横暴すぎッスッ!」  結局その日の晩メシは適当な定食屋を選んだ。  そしてセンの運転はどことなく危なっかしくて、おっかなかった。路面が凍ってるから仕方ねぇけど、オキジョーの運転テクニックを痛感した気がする。  それと、定食屋で頼んだメシより毎日食ってるオキジョーの作ったメシが無性に食いたくなったのは、なんでだろうな。 2話【アラサーの自立】 了

ともだちにシェアしよう!