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3話【優先すべき相手】 1
翌朝のことだ。
「──メイ。昨日の件で話があります」
休日なのに平日と同じ時間に起きたオレは、オキジョーと一緒に朝メシを食っていたのだが。突然オキジョーが、そんな話の振り方をしてきたのだ。
その話題は、オキジョーとノナガサンの仲を応援したオレの態度について、なのだろう。なにも答えず、オレは味噌汁を啜る。
……うん。正直、昨日定食屋で飲んだ味噌汁より、こっちの方がウマイな。
「どうして僕を置いて帰ったのですか? 僕が急いで帰ったからいいものの……鍵も持っていないのに、なにを考えていたのです」
「別に。……ノナガサンとどっか行けば良かったじゃん」
「昨日から野長さん野長さんって……なにがしたいのか、もう少し具体的に話してください」
卵焼きをつまみつつ、白米を食う。……あぁ。ヤッパリ、オキジョーが炊いたメシの方がウマイ。
なんて、しみじみと同居人の手料理に感動している場合ではない。オレはジッと、オキジョーの顔を見た。
正直に言うと、だ。なんでこんなにオキジョーがマジな顔をしてんのか、オレにはよく分かんねぇよ。オレはなにも変なことを言ってないし、してないはずだ。
カノジョができたんだろ? だったら、そっちを優先してやれよ。オレの言動はどう解釈したってそうなるだろうが。それが、どうして伝わらねぇんだよ。
どうにか言葉にしないと、オキジョーはまたなにかを誤解するかもしれない。だからオレは、言葉を紡ぐ。
「今までは知らなかったけど、今のオレは『オキジョーにカノジョができた』って知ってる。カノジョがいるなら、そっちを優先すべきだろ」
「どうしてですか?」
「いや『どうして』って──」
「──メイは誤解しています」
不意に、なにも掴んでいないオレの左手が──。
「──僕にとって、一番に優先したい対象はメイです。野長さんではありません」
オキジョーに、握られた。
変わらず、オキジョーの表情はマジだ。人当たりのいい笑みもなければ、柔らかいオーラもねぇ。真剣に、オレが最優先だって言ってる。
──それはオレが、カオリの代わりだからだろ?
「オキジョー……っ。……あの時は、ゴメン」
「『あの時』って、いつのことですか」
「カオリが、死んだ日」
左手を握るオキジョーの指が、ピクリと跳ねた。
まだオキジョーは、カオリの死を受け入れきれてないんだろう。それもそのはずで、なんだったらその原因はオレだ。
動揺した手を握り返すこともできず、オレは右手で持っていた箸を、テーブルの上に置いた。
「『代わり』ってのは、言っちゃいけないことだった。間違ってたんだ。なのに、ずっと……ゴメン」
「意味が、分かりません。もう少し、分かるように話をしてください」
「だ、から……ッ」
声が、震える。オキジョーの動揺が手から伝わったように、オレの動揺もオキジョーに伝わったらどうしよう。
この関係は、間違いだ。オレたちは、ただの親友でいなくちゃいけない。
なのに【カオリ の代わり】なんてレッテルを付けるから、おかしくなっている。
周りから見たら、オキジョーは【ただの幼馴染に使われてる可哀想な奴】だ。
だけど、オキジョーからしたら家族の面倒を見ているような感覚なんだろう。
それは【恋人】なんていう不確かな存在よりも、オキジョーにとっては大切な存在なのかもしれない。
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