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オキジョーをオレから解放できるのは、オレだけだ。そんなこと、疾うに知ってるし、気付いてる。
だけど『糾弾されたらどうしよう』って。いっちょまえに不安がってるのも、事実だ。
「オキジョーは、オレのことを【カオリの代わりとして】見る必要なんか、なかったんだ。だからお前は今後、ノナガサンとの時間を増やしていい。……増やす、べきだ」
喋るのはいつだって億劫だし、相手のことを思って話すのもダルイ。
……だけど今は、そんなこと言ってる場合じゃない。
言葉を探して、ブツブツと区切りながら話すオレの手を、オキジョーが強く握る。
「それは、僕が迷惑ということですか?」
「ハァ? ンなこと言ってねぇだろ」
「なら、どうしてですか。どうして突然そんなことを気にし始めたのか、その理由を教えてください」
突然、じゃない。薄々だがずっと、考えてはいた。
ただ、大きなきっかけがなくて。考えることを、放棄し続けていただけだ。
そのきっかけが【ノナガサンとの交際】ってだけの話。
「今までは、知らなかったんだよ。オキジョーがカノジョ作ってるって。だからむしろ、今までがダメだったっつーか……」
「今までが、駄目……? ……一応言っておきますが、別に隠していたわけではありませんよ。ただ、言う必要性を感じなかっただけで──」
「とにかく、オレよりカノジョを優先しろ」
もう終わったオンナのことはどうでもいい。今は、ノナガサンって人と付き合ってる。それだけで、十分だ。
オキジョーをオレから解放して、カオリの死を受け止めさせて、真っ当で幸福な道を歩かせる。そうしてあげるのが、今はベストなのだ。
決して、ケンカしたいわけじゃねぇんだよ。……頼むから、分かってくれ。
オレは握られた左手で、拳を作った。
「オキジョー。……頼む」
オキジョーはオレの頼みを、なんでもひとつ返事でオーケーしてくれる。
思えば、セックスのポジションだってそうだ。オレが『腰振んのダリィからタチはヤダ』って言ったら、オキジョーがタチをしてくれた。
『──オレをカオリの代わりにして。だから、オキジョーは泣くのをやめてくれ』
『メンドくせぇ、却下。オキジョー、代わりに書いてくれ』
『──オキジョー、抱いて』
『動けよ、オキジョー……ッ』
正しい幼馴染の距離感は、もう分からねぇ。親友も、同居人も、同僚も……。全部、正しいモンなんてあるのかすら分かってねぇさ。
だけどオキジョーとは、このままじゃ絶対ダメだ。
「頼む、から……分かって、くれ」
直接、口に出すのは怖い。
──『オキジョーの人生にこれ以上、オレは不要だ』って。そう伝えて、肯定されたくない。
人のためじゃなくて、保身のため。なにをするにしても、オレはいつもオレのために動いていたのだ。
カオリが死んで泣いているオキジョーを助けようとしたのだって、全部オレのためだった。オレがただ、オキジョーにお節介を向けただけなんだ。始まりから、オレたちはおかしかった。
いつまで経っても変わらないオレの、そんなズルくてサイアクなお願いも、オキジョーは……。
「それが、メイの頼みなら……」
コクリと頷いて、了承してくれた。
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