22 / 47

3 : 2

 オキジョーをオレから解放できるのは、オレだけだ。そんなこと、疾うに知ってるし、気付いてる。  だけど『糾弾されたらどうしよう』って。いっちょまえに不安がってるのも、事実だ。 「オキジョーは、オレのことを【カオリの代わりとして】見る必要なんか、なかったんだ。だからお前は今後、ノナガサンとの時間を増やしていい。……増やす、べきだ」  喋るのはいつだって億劫だし、相手のことを思って話すのもダルイ。  ……だけど今は、そんなこと言ってる場合じゃない。  言葉を探して、ブツブツと区切りながら話すオレの手を、オキジョーが強く握る。 「それは、僕が迷惑ということですか?」 「ハァ? ンなこと言ってねぇだろ」 「なら、どうしてですか。どうして突然そんなことを気にし始めたのか、その理由を教えてください」  突然、じゃない。薄々だがずっと、考えてはいた。  ただ、大きなきっかけがなくて。考えることを、放棄し続けていただけだ。  そのきっかけが【ノナガサンとの交際】ってだけの話。 「今までは、知らなかったんだよ。オキジョーがカノジョ作ってるって。だからむしろ、今までがダメだったっつーか……」 「今までが、駄目……? ……一応言っておきますが、別に隠していたわけではありませんよ。ただ、言う必要性を感じなかっただけで──」 「とにかく、オレよりカノジョを優先しろ」  もう終わったオンナのことはどうでもいい。今は、ノナガサンって人と付き合ってる。それだけで、十分だ。  オキジョーをオレから解放して、カオリの死を受け止めさせて、真っ当で幸福な道を歩かせる。そうしてあげるのが、今はベストなのだ。  決して、ケンカしたいわけじゃねぇんだよ。……頼むから、分かってくれ。  オレは握られた左手で、拳を作った。 「オキジョー。……頼む」  オキジョーはオレの頼みを、なんでもひとつ返事でオーケーしてくれる。  思えば、セックスのポジションだってそうだ。オレが『腰振んのダリィからタチはヤダ』って言ったら、オキジョーがタチをしてくれた。 『──オレをカオリの代わりにして。だから、オキジョーは泣くのをやめてくれ』 『メンドくせぇ、却下。オキジョー、代わりに書いてくれ』 『──オキジョー、抱いて』 『動けよ、オキジョー……ッ』  正しい幼馴染の距離感は、もう分からねぇ。親友も、同居人も、同僚も……。全部、正しいモンなんてあるのかすら分かってねぇさ。  だけどオキジョーとは、このままじゃ絶対ダメだ。 「頼む、から……分かって、くれ」  直接、口に出すのは怖い。  ──『オキジョーの人生にこれ以上、オレは不要だ』って。そう伝えて、肯定されたくない。  人のためじゃなくて、保身のため。なにをするにしても、オレはいつもオレのために動いていたのだ。  カオリが死んで泣いているオキジョーを助けようとしたのだって、全部オレのためだった。オレがただ、オキジョーにお節介を向けただけなんだ。始まりから、オレたちはおかしかった。  いつまで経っても変わらないオレの、そんなズルくてサイアクなお願いも、オキジョーは……。 「それが、メイの頼みなら……」  コクリと頷いて、了承してくれた。

ともだちにシェアしよう!