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終業時間になると、正面に座るオキジョーが立ち上がった。そして、普段と同じくオレの席に回ってくる。
だけど、今日のオキジョーはいつもと違う。
「メイ。夕飯は、冷蔵庫に入っている物を温めて食べてください」
これが今日、職場内で初めて交わした言葉になった。
ふと視線を動かしてみると、なぜだかソワソワした様子のノナガサンを見つける。なるほど、オキジョー待ちか。
「んー」
「気を付けて帰ってくださいね」
頷いたオレを見て、オキジョーは笑う。そしてそのまま、ノナガサンのデスクへ向かって歩いて行った。
一部始終を見ていたセンが、イスについたキャスターを滑らせて、オレに近寄ってくる。
「ちょ、ちょっと愛山城さん。沖縄先輩と、なにかあったんスか?」
「なにかって、なんだよ」
「『なに』って……。今日の二人、おかしかったじゃないッスか!」
なんなんだよ、コイツ。『自立しろ』って言ったり、実際になにもオキジョーに頼らなかったら頼らなかったで『なにかあったのか』って勘繰ってきたり……。メンドくせぇ後輩だな、センは。これが【ツンデレ】ってやつか。
軽く背筋を伸ばし、その後、脱力する。
「別に、なぁんもなかったべや」
「そうは思えな──」
「じゃあ、セン。今日もアパートまで送ってくれ」
パソコンの電源を切り、終わっていない書類は引き出しの中へ。片付けを終えたオレは、至近距離で座るセンの肩を押した。
「別に、それはいいッスけど。……今日は鍵、持ってるんスよね?」
「持ってる」
「それはなによりッス。……ちなみに、沖縄先輩と喧嘩でもしたんスか?」
いちいちうるせぇ後輩だな、マジで。関係ねぇだろうに。……あぁ、席が近いからイヤでも気になるのか。
きっかけはセンの言葉だったけど、センが気にするようなことはなにもない。むしろ、気にしちゃダメだろ。
──これこそが、普通なんだから。
「カノジョがいるんだから、そっち優先すんのが普通だろ」
「それは、まぁ……」
イマイチ納得していないような顔をしてるセンも、とりあえずはといった感じでオレから離れ、デスク周りの片づけを始める。どうやら本当に、オレを車で送ってくれるらしい。なんて先輩想いの後輩なんだろう。
センが持つ属性【ツンデレ】ってのは扱いが難しいが、特性を分かってくると可愛く思えてくるもんだな。
片付けを終えたセンは立ち上がると、不意にポツリと呟く。
「──確かに、明日はクリスマスイブだし。恋人同士で過ごすのが、普通ッスよね」
思わず、壁に掛けてある日めくりカレンダーを確認する。
……ホントだ。明日、二十四日じゃねぇか。
クリスマスイブっていうと、アレだろ? カップルはイチャイチャして、ホテル行ったり家に行ったりして、聖なる夜を性に溢れた夜にする。……そういう感じで盛り上がるイベントの日、だよな?
歩き出すセンに倣って、後ろをついて歩く。そのままオレは、ぼんやりと考えた。
──じゃあオキジョーは、明日の夜はノナガサンとセックスするのか。そう気付いた、その瞬間。
「……っ」
足が、鉛みたいに重くなった気がした。
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