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 今までオキジョーがカノジョと長続きしなかった理由は『オレだ』と。そう、センに言われた。  そしてセンは、そう言っていたのが『元カノたちだ』と言っていた気がする。  ……じゃあ、この会話はなんだ? どう聞いたって、オレのせいじゃねぇだろ?  もしかして……今までも、ずっと?  そう訊こうとした、その瞬間。 「だから言ったじゃありませんか。『森青君の言っていたことは、気にしなくていい』と」  まるで見透かしたかのようなタイミングと内容で、オキジョーが喋った。 「そ、れって……?」 「いつも、こうしてきちんとお別れしています。それは僕が考えて、僕の意思で決めていることです。誰になにかを言われたからじゃありません」  オレが着ているコートに、オキジョーが手を伸ばす。  慣れた手付きでボタンを外し、オキジョーの手によって、コートが脱がされる。  そのままコートを持ったオキジョーは、ハンガーにかけた。 「それなのに、最近のメイは変です。野長さんと話せと言うから話しましたし、メイのことを避けてほしそうだったので職場ではそう接しましたが……喜んでくれないじゃないですか」 「それは──」 「えぇ、勿論分かっていますよ」  コートを片したオキジョーが再度、オレを見る。 「──それは、森青君と交際を始めるためだったのでしょう?」  ──その目は、あまりにも寂しげだ。  言葉の意味が分からず、オレは細い目を丸くする。 「はっ? なんで今、センが出てくるんだよ……?」 「『なんで』とは、むしろなんでしょうか。なにも疑問を挟む余地がないほど的確な人物の名前を出したつもりですよ、僕は」 「だからそれがおかしいって話だろうが……!」  そこでふと、ある仮説が思い浮かんだ。  例えばだが、オキジョーが『ペンポーチを事務所に忘れた』と気付いたら? 当然、オキジョーは取りに戻るだろう。オキジョーは、そういう奴だ。  ──そこで、オレとセンの話が聞こえてきたら?  どうやら今度は名推理だったらしく、オキジョーが申し訳無さそうに視線を外した。 「白状します。……すみません。立ち聞きするつもりは、なかったのですが。……先ほど、森青君に告白されていたでしょう?」  ヤッパリだ。オキジョーは【アレ】を、聞いていたらしい。  しかしオキジョーの言い分を聞いていると、なんだか変な誤解をしている気がしてならない。 「オレとセンの話、どこまで聞いてたんだ?」 「メイが、森青君に対して『ありがとう』と言って、交際を受け入れるところまでです」  なんでそんな中途半端なところまでしか聞いてねぇんだよ、コイツは。たぶん、空気を読んで途中退場しやがったな? 真面目かよ、バカヤロウが。  けど、なんて言えばいい? 素直に『振った』と、答えていいんだろうか。  いや、否定しないとオキジョーの中で【オレとセンは恋人】ってことになるし、言っていいだろう。 「変な誤解すんな、バカ。……オレとセンは付き合ってねぇっつの」  ただの報告が、なんでこんなに緊張するのか。恋愛経験ゼロのオレには、分からなかった。

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