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 スーツがシワになるとか言ってたのは、オキジョーなのに。力強く抱き締めてくるこの腕は、なんなんだ。これこそ、シワになるぞ。  ……とは、当然言えず。オレは棒立ちになりながらも、すぐ横にあるオキジョーの頭を見た。 「なんで、ンな、情けねぇほど震えてんだよ?」 「メイには分かりませんよ……っ、絶対に、分かりません……っ」 「ンだよ、それ。勝手に決めつけんなや」 「だったら。この数日、僕がどれだけ不安だったか……メイは、分かってくれますか?」  ……悪い、分かんねぇ。  言い訳させてもらうなら、そもそもオレはオキジョーを傷付けようという魂胆、一切無かったんだ。  それなのに、オキジョーは震えてる。オレがオキジョーをこうしてしまったんだ。 「……悪かったよ、オキジョー」 「本当に、メイは酷い人です……っ」 「ちゃんと謝ってんだろぉが」  職場で『カッコいい』とか『頼りになる』とか言われている背を、ポンポンと叩いてみた。……ふむ。オキジョーは文句を言わないから、続けていいんだろう。  背中をさすりながら、もう片方の手でオキジョーの頭を撫でる。すると、オキジョーは口を開いたらしい。 「ねぇ、メイ。……僕のこと、邪魔だと思いますか……っ?」  まるでガキみてぇなことを訊くオキジョーは、体だけじゃなく、声も震えていた。 「バカか。思うわけねぇよ」 「迷惑じゃ、ないですか……?」 「そんなこと、思うはずねぇよ。……知ってんだろ」 「分かりませんよ……ッ!」  不意に、オキジョーの頭が動く。 「──あなたの考えは、なにひとつ僕には分かりません……ッ」  動きに続いて、オレを見下ろすように上がった頭を見上げる。  ……なんて。なんて情けない顔してんだよ、お前……ッ。 「オキジョー、そんな顔──」 「──あなたが森青君と付き合うんじゃないかって、僕は不安でしたッ!」  オレは、ただ『情けない顔をする必要はねぇ』って、言いたかったのに。  オキジョーに、言葉を遮られる。こんなに激高しているオキジョーを見るのは……カオリが死んだ時以来か? 「いいえ、それだけじゃありません! いつかあなたが僕のもとから離れていくんじゃないかって、ずっと不安でしたッ! 今だってそうです! 今ここであなたを解放したら、どこかへ逃げてしまうんじゃないか……ッ。そんな不安がッ、メイに分かるはずがないッ! 分かってくれるはずがないんですッ!」  ……はっ? なに、言ってんだ?  カオリが死んだと知った時も、相当テンパっていたが……コレは、その比じゃない。  焦りとか怒りとか、そういう感情がグチャグチャに混ざってる。  それを一身にぶつけられて、どうしたらいい? 「オ、オキジョー……? ちょっと待て、落ち着け……ッ」 「落ち着けるわけないじゃないですかッ!」  今にも掴みかかってきそうな勢いに、圧倒される。いや、抱き締められてるわけだから掴まれてはいるんだが……って、そういう話じゃない。  動揺するあまり一周回って冷静さを抱くオレに対し、オキジョーはどこまでも落ち着きがなかった。  ──だからこそ、爆弾を投下してきたのだろう。 「──メイがいてくれないなら、僕は彼女なんて要りません。僕は、メイしか要らないんです……ッ!」  それは、まるで。 「──メイが、好きです。僕はずっとずっとずっと、メイが好きなんです……ッ」  ──告白だった。

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