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 ふと、センの言葉を思い出した。 『愛山城さんは、沖縄先輩のこと……好き、なんスか?』  今なら、こう言える。  ──『バカヤロウ。それはオキジョーに訊け』と。 「オキジョーが……オレを、好き……っ?」  人生で。そして本日二度目の告白は、ヤッパリ慣れない。相手との関係性が近しすぎるし、そもそもヤッパリ男だ。どうかしてるぞ、オレの恋愛遍歴。  だけどヤッパリ、告白をしてくれた相手はウソを吐くような相手じゃない。センも、オキジョーもだ。  でも、オキジョーは少し違う。 「お、ま……だって、ノナガサンは……っ?」  そう。オキジョーはつい数時間前まで彼女持ちだったのだ。告げられた言葉と実状が、全く合わない。 「『お試しです』と言ったじゃないですか」 「だからその『お試し』ってなんなんだよッ!」  ダメだ。意味が分かんねぇ。  マジで意味分かんねぇ、意味分かんねぇ意味分かんねぇクソッ!  ……つまり、アレか? 特に好きじゃなかったけど告白されたから付き合って、ヤッパリ好きじゃないからって振ったってことだよな?  そんな、そんな失礼なこと──。  ──オレとオキジョーの関係……それと、まったく同じだ。 「相手に頼まれたから、付き合いました。だけどどうしたって僕はメイが忘れられないし、なにを与えられたってメイしか要らない。他はどうだっていいし、明日メイ以外の誰が死んでもなんの感情も抱きません。そのくらい、僕にとってメイ以外の人間はどうだっていいんです。要らないんです」  頼まれたから、その通りにした。オレがなにかを頼んだら、オキジョーはなんだってする。それは、女からの告白も然り。……そういうことか? 「でも、メイだけは別なんです。あなたが望むことは途中で投げ出さない。どんなに本意じゃなくたって、成し遂げてみせます。メイだけは別なんです」  オレは今、告白されたはずだ。その真意を、聴いているはずだった。  なのに、なんだ、コレ? こんなの、まるで……っ。 「だから、そばに居てください。僕から、離れないで。これ以上はなにも望みませんから……なんだってしますから、だから……ッ!」  ──縋りついてるみてぇじゃねぇか。  情けなく体は震え、声だって震えている。そしてきっと、泣き出しそうな顔をしているはずだ。  今のオキジョーは、会社の誰もが人間が憧れるような姿じゃないだろう。  ──それは全部、相手がオレだからなのか? 「メイ……ッ。好きです、好きなんです……ッ! 捨てないで……どこにも行かないで、ずっと一緒に──」 「オキジョー、分かった。分かったから一回放せ。……な?」 「嫌です! 今ここで放したら、あなたはどこかに逃げるでしょう? それこそ、森青君のところへ逃げていくかもしれない……! そんなの絶対に──」 「──いいから一回放せっつってんだよバカッ!」  無駄に立派な胸板を力尽くで押すと、自称『メイの頼みならなんでも叶える』オキジョーは、ゆっくりと離れた。オレが押しても、体がビクともしなかったのには目を瞑ろう。……オレ、情けねぇ。  距離を作り、顔をもう一度見上げる。  すると、ヤッパリオキジョーは……。 「メイ……っ」  情けない顔を、していた。

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