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 オレとオキジョーの関係に、明確な名前はない。  幼馴染だけど親友だし、親友だけど同居人だし、同居人だけど同僚。  だけどそれらは全部、家事をやらせたりしないし、世話も焼かせない。普通に考えて、セックスだってしねぇ。  だからこの関係には、名前がない。  一番信頼のおける関係だってのに、一番不確かな関係だなんて……。きっとメンタル豆腐なオキジョーからしたら、不安でしかないんだろう。  ──それなのに、オキジョーは『名前を付けたい』とは、言ってこない。 「メイ、お願いです……っ。お願い、だから……っ」  そばに居て、と。離れないでと言うだけで、それ以上はなにも望んじゃいねぇ。  ──そんなの、オレはイヤだ。  子供の頃は同じくらいだった背丈も、可愛かった顔も、高かった声も。今では全部、変わってしまった。  ……だけど、不安そうなその目だけは、いつまで経っても変わんねぇのな? 「オレはもう、このままお前のそばには、いてやれない。……いたく、ない」 「ッ! メ、メイッ! 嫌ですッ、僕はそんなの──」 「黙って聴けやボケ!」  いつもはこっちが戸惑うくらい落ち着いてるくせに、今はビビるくらい冷静さの無いオキジョーに向かって一喝する。  オレの言うことをきちんと聴くという心根は変わってないのか、オキジョーは不満気だが、押し黙った。 「お前のことが嫌いとか、引いたとか……そういうワケじゃねぇ。そんなの、あるはずないだろ! ……分かれよ、オキジョー」  屋根を滑り落ちる雪の音と、ウマそうなシチューの匂い。オレたち以外が普段通りすぎて、そのアンバランスさに笑いそうだ。……って。ったく、なにを考えてんだろうな、オレは。  ──茶化すのは、ここまでにしよう。  今にも泣きそうな情けない顔を晒すオキジョーを見上げて、オレは精一杯の睨みを向けた。 「──オキジョー、オレと付き合って。オレの、カノジョになって」  可愛げもなにもない、それはもう酷い言葉だろう。オキジョーとセンは、もう少し雰囲気とか可愛げとかがあった……気が、する。知らねぇけども。  なのにオキジョーは目を丸くして、頭ひとつ分くらい小さいオレを見ている。まるで、感動してるかのような。……そんな顔で。 「……え、ぁ……えっ? メ、メイ……?」 「ンだよ」 「なにを、言って……?」 「ハァ? 分かんねぇの?」  睨み付けると、オキジョーがゆるゆると首を横に振る。その動きがなんだか幼くて、口角が緩む。……睨みながら笑ってるって、オレはちょっとヤバイ奴かもな。どうでもいいけど。  ほんの少し広がった距離を、オレがオキジョーに抱き付くことで縮める。すると、抱き付かれたオキジョーは、硬直していた。  それがなんだかまた可笑しくて、思わず破顔する。 「ふはっ! ……なぁオキジョー。オレの頼み、なんでも聴いてくれるじゃねぇの?」 「そ、れは。それは、勿論……っ」 「じゃあ、オレのカノジョになって」  もしかしたらコレは、オキジョーへの呪いかもしれない。ほんの少し、そう思う気持ちがある。  ……だけど、そうじゃねぇよな? 「──は、い。……はいっ、喜んで……っ!」  この関係こそ、お互いの利害が──いや。  ──お互いが得しかしてない、サイッコーな関係なんだから。

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