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「ちい!今日の試合すごかったじゃねーか!」
ばん、と佐山の背中を叩く。痛い、と佐山は拗ねた顔を藍季に向けた。
「すごくないよ……先輩達にいっぱい迷惑かけちゃった……」
「でも向こうのチームも三年がほとんどなのに何回もブロック決めてたじゃねえか!まだ二年なのにすげえって!」
興奮気味な藍季とは反対に佐山はまだ申し訳なさそうな顔をしている。
一年の入部したての時は藍季よりも身長が低いくらいだったのに、途中からぐんぐん伸びてきた佐山は進級してからは三年生に混じって二年生では唯一のレギュラーになっていた。それだけでも二年生の中では佐山は憧れの的だったのだが、当の佐山は気の弱い性格も相まってこの調子である。もっと誇っていいのに、自信を持てばいいのに、と藍季は常々思う。佐山は自分では身長だけだと思っているらしいが、藍季から見ればバレーボールのセンスもあると感じていた。
「あいもピンチサーバーで出てたじゃん」
「おう。でもやっぱ前衛でスパイクも打ちてぇ!」
もっと頑張らなきゃな、と藍季は自分でうんうんと頷いた。悔しいこともあるが、バレー部もバレーボールもかなり気に入っていて、すっかりのめり込んでいた。
「早瀬ぇ。ちいって呼び方女の子みてぇじゃん。佐山全然ちっちゃくねーし」
チームメイトはいつも藍季が使う佐山の呼び方をからかう。千草だからちい。呼びやすいと思うのだが、なかなか浸透しない。
「まあ、佐山もあいって呼んでるしお互い様かぁ」
「呼ぶなって言っても聞かねーんだよコイツ」
「だからお互い様だろ。なあ、佐山?」
チームメイトが佐山に振る。佐山はぼんやりと首を横向けていた。「どこ見てんのコイツ?」と藍季と顔を見合わせた。
「ちい、なに見てんだ?」
「……ううん。なにも」
ようやくこちらを向いた佐山は首を横に振った。
「お前はいつもぼーっとしてるなあ」
「そう?」
「バレーしてる時だけだよ。しっかりしてんのは」
でも、藍季はそんな佐山を気に入っていた。
いつか、佐山と同じコートで試合に出ることを夢見ていた。
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