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「ちいー、もう泣くなよ」 ほら、と頭に被せたスポーツタオルを剥ぎ取ると、涙でぐしゃぐしゃになった佐山の顔が現れる。目を擦ったのか赤く腫れている。 佐山はよく泣いた。練習がキツかったり、顧問や先輩に叱られると情けないのかへこむのか、ぐずぐす鼻をすすり出す。 逃げ出すことはないが、かなり我慢をしているからなのだろう。部活動の時間が終わればこうして決壊して部室や体育館の隅で座り込んでしまう。 今日は顧問からの厳しい指導で、半泣きでボールを追いかけていた。厳しくされるのは佐山が有望な選手になれるからだと藍季は思っているのだが。 それは多分佐山も分かってはいることで、それでも厳しくされるのは怖いのだろう。今までのほほんと過ごしてきたであろう佐山だから仕方ないのだ。 だから、こういう時藍季は「しっかりしろ」とか「お前のためなんだぞ」なんて他の周りの人間が佐山に散々してきた同じ声掛けはしない。 佐山の汗で湿った髪を撫でてやる。身長ばかり伸びて、中身はまだまだ子どものようだ。 「怖かったよな。でも最後まで頑張って、えらいじゃん」 佐山は顔を上げた。ぼろぼろ零れる涙が止まる。 「早く帰ろうぜ。お前ん家行っていい?漫画の続き貸してくれよ」 「……うん」 こくりと頷くのを見て、よしと頷く。佐山の腕を掴み引っ張り上げる。 立ち上がった佐山の背中を軽くポンと叩く。 「ほいタオル。ちゃんと汗拭けよ?さー俺も着替えよ」 佐山の腕を引き、部室へ向かう。 「あい」 「ん?」 「ありがとう。あい」 中学生の藍季には、佐山のストレートな感謝の言葉がむず痒かった。振り返らずに、「おう」と素っ気なく返した。 ──その時。佐山がどんな顔をしていたのか、知らなかったのだ。

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