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はああ、と本日何度目か分からない溜息を吐く。髪をガシガシ掻きむしっていると、藍季のデスクを通りがかった同期の女性社員、神谷がぎょっとした。
「早瀬くんどうしたの……?お昼休憩だからご飯行ったら?」
「あー……」
いつもはコンビニで買ってくるか外へ食べに行くかなのだが、今日は出ていく気にもなれない。デスクの引き出しに入れておいたエナジーバーを取り出す。
「食いしん坊の早瀬くんがそれだけ……?」
「食欲ないんだよ」
「相当重症ね。悩みでもあるの?」
お恵み、と神谷はエナジーバーの隣にクリームパンを置いた。神谷は今日は出勤前にパン屋へ行ったらしく、駅前のパン屋の袋がにあった。そして買い過ぎたのだろう。かなり大量で、明らかに彼女一人分の量ではない。
「…………」
「なに?」
「神谷さんさ、恋人がヒモってどう思う?」
え!?と神谷は声を上げた。
「早瀬くんの彼女!?いたの!?」
「違う違う!友達の彼氏の話!」
慌てて誤魔化したが、そもそも佐山は恋人ですらない。
女友達に相談されたていにすることにした。ふんふんと話を聞いていた神谷は難しい顔をした。
「うーん、私だったらヒモはないかなぁ」
「だよなあ」
「散々お金払わせておいて最後には男から離れるとかも聞いたことあるし、その子、他の彼氏探した方がいいんじゃない?」
「……!だよな!」
急に元気の出た藍季に、神谷は不思議そうに首を傾げた。
そう、やっぱりヒモはない。その後押しが欲しかった。別に佐山と付き合っているわけでもないし、付き合ってほしいとも言われていないが。神谷の言葉は勇気づけてくれた。
帰宅した藍季は、野菜炒めを作る佐山に高らかに宣言をした。
「ヒモとは付き合えねーから!」
じゅうじゅう音を立てるフライパンを持った佐山は、きょとんとした。
「……俺、別に今もあいのこと好きとは言ってないんだけど」
「へ?」
「付き合ってほしいとか言ってないし」
佐山はコンロの火を止め、野菜炒めを皿に盛り付け始めた。
「あー……そうだよな。言ってなかったな」
完全に早とちりした自分が恥ずかしくて、顔を手で覆った。
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