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第二章 ボーダーライン6

 この日は宏輝が五コマ目まで講義があったのに対して、将大は六コマ目まで講義が入っていた。宏輝は将大の講義が終わるまで、大学付属の図書館で時間つぶしをする。将大は先に帰っていてもいいと言ったが、宏輝はそれを断った。レポート課題も終わっていなかったし、こうして将大を思って待っている時間というものも、なかなか楽しかった。  レポート用に何冊かの本を手に取り、落ち着ける席を探していると、図書館内だというのにとうるさい喋り声が聞こえた。見ると、図書館の受付カウンター付近のテーブル席を、やたらと騒がしいグループが占領していた。館内はもちろん私語厳禁だが、彼らの威圧的な雰囲気を恐れ、注意するものは誰もいない。司書でさえ見て見ぬフリをしている始末である。それは宏輝も例外ではなかった。  彼らの姿はこれまでに何度か見たことがある。いわゆる不良学生のグループで、そのうちの何人かは札付きのワルである。ここ数日は気温が高く、キャンパス内の冷房設備にはあまり期待ができないので、彼らは年中ちょうどいい温度設定に保たれている図書館に目をつけたのだろう。  だが、宏輝のように真面目に利用したい学生にとっては迷惑以外の何ものでもなかった。  彼らを見て気分を悪くした宏輝は来た道を引き返し、受付カウンターから最も離れた席に向かう。引き返しざまにふと振り返ると、彼らの中のひとりの男と目が合ったような気がした。おそらく一年だろうか。派手な容姿に奇抜な服装。だがその顔は意外にも整っている。その彼は宏輝と目が合うとニヤリと笑った。  このままでは絡まれてしまう。宏輝は何事もなかったかのように足早に立ち去ったが、不快感はけっして消えなかった。

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