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第二章 ボーダーライン8
――ピンポーン。
インターフォンが鳴る。宏輝はビクリと身をすくませる。おそるおそる玄関を見る。来客の正体に心当たりはない。
――ピンポーン。
再び、インターフォンが鳴る。今度は先程よりも少しだけ強く。宏輝の身体はガタガタと震えだす。恐れていたものが、ついに来てしまったのだろうか。そんなはずはない。予告のカードを受け取ったのは、ほんの少し前だ。ストーカーが来るのは三日後の月曜日のはず。いや、そもそもストーカーが約束事を守る保証はない。やっぱり玄関ドアの向こうにいるのは宏輝を脅かし続けているストーカーなのだろうか。
パニックの波が宏輝を包みこむ。目の前が暗くなっていく。
「いやだ……いやだ……」
まただ。喉が絞まっていく感覚。
「もう嫌だっ、来ないでっ!」
宏輝は頭を抱え、目の前の現実から逃げようと何度も首を左右に振る。
「来ないで来ないで来ないで! 助けてマサくん! 早く僕を助けて……っ!」
「……ヒロ?」
「っ……ぅ……マ、マサくん? マサくんなの……?」
来客の正体は将大だった。
「ヒロ、どうした? 大丈夫なのか? 早く開けてくれ!」
将大の声に、ようやく宏輝はドアに鍵とチェーンをかけていたことを思い出す。フラフラと立ち上がり、将大を迎え入れるべく、それらに手を伸ばした。
「いらっしゃい……どうしたの? こんな時間に」
「ヒロ?」
ドアを開けた先に将大の姿がある。だが、その輪郭は潤んでいて、はっきりとはわからない。
「どうして泣いてるんだ?」
「……え?」
将大に指摘されて、ハッと気づく。将大の姿が潤んで見えたのは、自分が泣いているせいだったのだ。宏輝は慌てて涙を拭う。将大に悟られてはならない。男にストーカーされて、怖くて泣いていただなんて知られたくはない。
「あ、あのね……さっきテレビで動物もののドキュメンタリーやってたから、それで……それで……」
「……宏輝」
「な、何?」
将大のまとう気配がガラリと変わる。心なしか怒っているようだ。
「俺にも話せないのか?」
「何の話? マサくんに心配されるようなことしてないよ」
「ヒロがそういうなら、それでいいけど……」
「僕は大丈夫だから。それで、何しに来たの?」
「ヒロが心配だったから、それだけ。上がってもいいか?」
本当はすぐにでも将大に助けてもらいたい。でも、もし将大に軽蔑されたら宏輝は頼る相手を無くしてしまう。それだけは嫌だ。宏輝は複雑な心境のまま将大を迎え入れた。
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