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第二章 ボーダーライン11

 将大を帰した宏輝は玄関口にうずくまり、膝を抱える。将大を傷つけてしまった。帰り際の問いかけが宏輝の心に深く突き刺さり、あとになってじくじくと痛みだす。 「ごめんね、マサくん……」  将大が信頼できないわけではない。むしろ逆だ。宏輝が心を許せる相手は将大ただひとりだけと言っても過言ではない。だからこそ将大には心配をかけたくないし、この件に関わってほしくない。でも、助けてほしい。堂々巡りだ。宏輝の思考はどんどんマイナス方向へ傾いていく。 「ごめんね……っ、ごめんね……」  宏輝は自分の腕を噛む。自傷行為とも言えないほどの弱々しい行為だが、自らの肉体に傷をつけることは甘えの証だ。腹を空かせた赤子が母親を求め、わんわんと泣くように。自ら転び、気を引いて慰めの言葉をもらうように。 「ごめんね……ごめんね、マサくん……ごめんね……」  宏輝は自らを傷つけ、自らを慰めた。  将大を帰してからどれくらいの時間が経ったのだろう。宏輝は玄関口で眠っていた。宏輝は胎児のように身体を丸め、ときおり指をしゃぶりながら、深く、深く眠っていた。その顔には安らかな笑みが浮かび、憔悴しきっていた頬もほんのりと赤く染まっていた。 「マサくん……」  夢を見ていた。将大と出会ったころの、十年以上前の記憶。 「マサくん……好き……好きだよ……」  幼少期に憧れていた存在が、遠く離れていく。悲しい夢だった。

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