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第三章 第三の男1

 将大との昼食は今日も静かだ。食堂内はいつもどおりに騒がしいが、ふたりの周りは特別な結界でも張ってあるかのように静かで、互いの食事を摂る音だけが聞こえる。将大は今日も宏輝の斜向かいに座り、宏輝と同じメニューを頼む。  金曜の夜のことが嘘のように進んでいく、平穏な日常。だが、それは互いに気を遣いあっている証だ。ほんの少しの衝撃であっという間に崩れてしまう、砂上の城のように。  宏輝は斜向かいの将大を見る。何もなかったかのように装っているが、食事の最中、将大とは一度も目が合わなかった。気まずさがつのる。  だが、ふたりの空間は突如として第三者によって壊されたのである。 「ウッチー先輩! ここ、いいっスか?」  その人物はふたりの許可を取ることなく、将大の隣に、そして宏輝の正面を陣取る。そうして宏輝の顔を見て、ニコリと笑った。 「……誰?」  どこかで見たような覚えがある。派手な容姿に奇抜な服装。だがその顔は意外にも整っている。ああ、そうだ。前に大学図書館で見かけた――。 「俺のこと忘れちゃいました? 一年の間宮です。間宮夏紀」 「っ、お前は!」 「そうです。先日図書館で会いましたよね? ああ、あと、たしか四月の初めころかな……そのときにも俺たち会ってるんですよ。ウッチー先輩ったら、俺のことすっかり忘れっちゃって……困った人だな」  間宮の言う通りだ。宏輝は確かにこの男に二度ほど会っている。だが、それだけだ。それだけの相手にここまでずうずうしくなれるものなのか。宏輝は嫌悪感を顔に出す。斜向かいに座る将大も、同じだった。 「ねえ、先輩――」  間宮の登場に唖然としたのも束の間、箸を持つ右手をぎゅっと握られる。衝撃で箸がトレーの上に落ちた。 「――先輩痩せました? ちゃんとご飯食べてます?」  間宮が心配そうに見つめる。宏輝は小声で「大丈夫」と返し、掴まれたままの手首を取り戻そうとする。しかし間宮の力は強く、宏輝の力ではビクともしなかった。 「手を離せ」  将大が低い声で告げる。このふたりは初対面だ。 「アンタはウッチー先輩のお友達? でも俺が話したいのはウッチー先輩だけだから。放っておいてくれません?」 「手を離せと言ってるだろう」  将大の眉間に深いしわが刻まれる。一触即発の状況においても宏輝にはなすすべがない。一刻も早く、間宮に掴まれた手を取り戻したかった。 「は、離してくれ、間宮!」 「ねえ、ウッチー先輩。この男誰です? さっきから超ウザいんですけど」  間宮の攻撃的な目が将大を睨む。将大も間宮を睨み返したが、このままでは宏輝は解放されないと思ったのか、さらに低い声で「長谷川」とだけ答えた。 「へえ、長谷川先輩ねえ。アンタいつもウッチー先輩の横にいるけど、この人とどういう関係なんですか?」 「宏輝の手を離せ。何度言ったらわかるんだ」 「何怒ってるんですか、長谷川先輩。冗談ですよ」  ようやく間宮の手が離れる。宏輝は掴まれていた個所を何度もこすり、間宮の触った痕を拭い去ろうとする。それを見た間宮は顔をしかめたが、何事もなかったかのように、静かに立ち去った。

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