25 / 82
第三章 第三の男4
異常なまでに距離感が近い。視界が狭まる。こみ上げる吐き気。止まらない脂汗。チリチリと痛む指先。これ以上間宮に関わったらまた過呼吸になってしまう、と宏輝は思った。
だが間宮は、宏輝の現状を自分のせいだとは思わないようで、べたべたと触り続ける。
宏輝はもう限界だった。
「ごめん間宮。僕、もう行くから!」
宏輝は自分を叱咤し、間宮の手を振りほどいて立ち上がる。そのまま椅子を後ろに引いてこの場から離れようとした瞬間、間宮の手が宏輝の片腕を掴んだ。
「っ、は、離せっ!」
「先輩……俺のこと、嫌いになっちゃいましたか?」
「……いいから手を離してくれ」
「俺、先輩ともっと仲良くなりたい。俺も長谷川先輩みたいにいつもウッチー先輩の隣にいたい。ねえ、俺じゃ駄目なの? どうしたら先輩は、俺を受け入れてくれるんですか?」
「手を離してくれ……早くっ」
「先輩……」
「頼むから……っ」
「……そんな泣きそうな顔しないでくださいよ」
間宮が悲しそうに笑う。腕を掴む間宮の手が、ゆっくりと離れる。
「俺、先輩が悲しむ顔は見たくないんです」
いつになく、その表情は真剣だった。
「だから笑ってください。俺のためにも」
間宮はそう言って席を立ち、宏輝に向かって軽く頭を下げる。
「変なこと言ってすみません。でも、本当に先輩は笑ったほうが可愛いですよ」
「……もう僕には関わらないでくれ」
「先輩が悲しむ顔は見たくないので、善処します」
「善処って」
「ははっ、冗談です。でもね、ウッチー先輩。先輩のほうこそ気をつけたほうがいいですよ」
「何の話だ」
「長谷川先輩、でしたっけ? あの人なかなかだよ。先輩、変なコトされてません? 大丈夫?」
「将大のことを悪く言うな!」
宏輝も立ちあがり、間宮をキッとにらむ。自分のことはまだいい。だが、将大を悪いように言われるのは腹が立った。
「早くどこかに行ってくれ。もう僕らに金輪際かかわるな!」
「……その僕らって言い方、ちょっとカチンときます」
「間宮!」
「邪魔者は消えますよ。じゃあね先輩」
間宮はズボンのポケットに両手をつっこんだままの姿勢で、フラフラと立ち去っていく。
気分を害された宏輝は食欲を失い、残してしまった料理を載せたトレーを返却口まで運ぶ。
早く将大に会いたかった。
ともだちにシェアしよう!