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第三章 第三の男4

 異常なまでに距離感が近い。視界が狭まる。こみ上げる吐き気。止まらない脂汗。チリチリと痛む指先。これ以上間宮に関わったらまた過呼吸になってしまう、と宏輝は思った。  だが間宮は、宏輝の現状を自分のせいだとは思わないようで、べたべたと触り続ける。  宏輝はもう限界だった。 「ごめん間宮。僕、もう行くから!」  宏輝は自分を叱咤し、間宮の手を振りほどいて立ち上がる。そのまま椅子を後ろに引いてこの場から離れようとした瞬間、間宮の手が宏輝の片腕を掴んだ。 「っ、は、離せっ!」 「先輩……俺のこと、嫌いになっちゃいましたか?」 「……いいから手を離してくれ」 「俺、先輩ともっと仲良くなりたい。俺も長谷川先輩みたいにいつもウッチー先輩の隣にいたい。ねえ、俺じゃ駄目なの? どうしたら先輩は、俺を受け入れてくれるんですか?」 「手を離してくれ……早くっ」 「先輩……」 「頼むから……っ」 「……そんな泣きそうな顔しないでくださいよ」  間宮が悲しそうに笑う。腕を掴む間宮の手が、ゆっくりと離れる。 「俺、先輩が悲しむ顔は見たくないんです」  いつになく、その表情は真剣だった。 「だから笑ってください。俺のためにも」  間宮はそう言って席を立ち、宏輝に向かって軽く頭を下げる。 「変なこと言ってすみません。でも、本当に先輩は笑ったほうが可愛いですよ」 「……もう僕には関わらないでくれ」 「先輩が悲しむ顔は見たくないので、善処します」 「善処って」 「ははっ、冗談です。でもね、ウッチー先輩。先輩のほうこそ気をつけたほうがいいですよ」 「何の話だ」 「長谷川先輩、でしたっけ? あの人なかなかだよ。先輩、変なコトされてません? 大丈夫?」 「将大のことを悪く言うな!」  宏輝も立ちあがり、間宮をキッとにらむ。自分のことはまだいい。だが、将大を悪いように言われるのは腹が立った。 「早くどこかに行ってくれ。もう僕らに金輪際かかわるな!」 「……その僕らって言い方、ちょっとカチンときます」 「間宮!」 「邪魔者は消えますよ。じゃあね先輩」  間宮はズボンのポケットに両手をつっこんだままの姿勢で、フラフラと立ち去っていく。  気分を害された宏輝は食欲を失い、残してしまった料理を載せたトレーを返却口まで運ぶ。  早く将大に会いたかった。

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