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第三章 第三の男7

 将大はスマートフォンを片手に怒りに震える。  お前に何がわかる、と怒鳴り返したかったが、間宮が言ったこともまた事実だった。  今の将大では宏輝を守りきれない。宏輝が頑なに否定したとはいえ、彼の身に危険が迫っていたことに将大は気づいていた。だが宏輝に嫌われたくないという気持ちが先行して、その事実から目を背けてしまったのである。  結果は最悪だ。  宏輝は心に深い傷を負ってしまった。しかも、ストーカーの正体は間宮だったのだ。  間宮は狡猾な男で、おそらく将大の行動パターンも知っていたのだろう。将大が宏輝のそばを離れざるをえない時間帯を狙って、宏輝を襲ったのだ。  それでいて間宮は卑怯な男だ。宏輝が怯える様を楽しむように陰湿な手で接触したり、見せつけるように将大の前で宏輝に話しかけたり。まさか大学構内で殴り合いの喧嘩をするわけにはいけない。それがわかっているからこそ、将大は手出しができなかったのだ。 「くそ……っ」  厄介なことに、間宮は宏輝に対して度を越した愛情を抱いている。将大がいくら牽制したとはいえ、それは変わらないだろう。このまま終わるとは思えない。  もしかしたら、さらに卑劣な手段で宏輝を追いつめるだろう。それだけは阻止しなければならない。 「宏輝は俺が守る」  幼馴染の笑顔が見たい。宏輝には笑っていてほしい。そのためには何でもする。宏輝の隣にいることが将大にとってのステイタスだし、また誇りでもある。  右手で握り締めているスマートフォンが振動する。すぐさま将大は通知を見る。メールだ。送り主は宏輝。文面を確認する。内容はたった一言だった。 『今晩、泊めてほしい』  どこかドライな一面もある宏輝らしい一文。将大はそこから宏輝の現状をくみ取る。  十中八九、間宮がらみの件だろう。おそらく昼食時、宏輝をひとりにしてしまった間に間宮は接触したのだろう。抜け目のない男だ。  将大は素早く『いつでも来い』と返す。その後の返信はないが、宏輝は早足でこちらに向かっているのだろうと、将大には想像がつく。  宏輝を待つ間、将大は部屋の中をざっと片づけ、彼を迎え入れる準備をする。時刻は夜の八時近く。腹を空かせてはいないだろうか。将大は冷蔵庫へと向かう。めぼしいものはなかったが、作り置きの惣菜がいくつか残っていた。  次に将大は浴室へ向かう。宏輝は一番風呂ならば湯船につかる。湯を張っておいて損はないだろう。浴槽を洗い、たぷたぷと湯を張っている間、将大の思考は宏輝からのメールに囚われる。  泊めてほしい、ということは何か家に帰れない事情でもできたのか。それとも単にひとりでは不安なのだろうか。おそらくその両方であろう。  今の段階では理由の特定は難しいが、こんなときに将大は宏輝に頼られる自分という存在を強く肯定している。これまでもそうだが宏輝にとって将大は、非常時に助けを求めることのできる唯一無二の存在なのである。  ただ欲を言えば、震えるその小さな背中をそっとこの腕で抱きしめたい。将大は常にそう思っている。  気づけば浴槽の湯は満ち、溢れた上澄みが将大の足元を侵食していく。熱い。熱を帯びた水がじわじわと将大の内部に染みこんでいく。宏輝は今どこにいるのだろう。  将大は慌てて蛇口をひねった。

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