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第四章 手のひらの記憶2

「俺のこと怖がらないでほしいな……とは言ってもそりゃ無理か。そうですよね。でもね、先輩。俺、先輩に対しては優しくしてあげたいって思っているんですよ」 「だったらもう離してくれ……もう触らないで……」 「それは駄目です。俺、本当に先輩のことが好きなんです。愛しているんです」  眼前に迫った間宮の目は、どこか切なげに歪められていた。 「でもあなたは……」  間宮の両手が強張る宏輝の顔を包む。強制的に視線を合わせられる。 「俺の思いなんてこれっぽっちも理解できないんでしょうね」 「何を、言って……?」 「いいえ、こちらの話です。ねえ、先輩。ひとつ聞きたいんですけど」 「答えたら手を離してくれるのか? いい加減にしてくれ!」 「おっと、暴れないでくださいよ」  宏輝は間宮の腕に爪を立てようとしたが、間宮は赤子の手をひねるように宏輝をいなし、暴れる両腕を頭上でまとめる。 「やめろ!」 「先輩、黙って」 「よせ! 触るな!」 「あんまり騒ぐと口も塞いじゃいますよ」 「……っ、頼むから」 「泣かないでくださいよ」  間宮はまとめた宏輝の腕をベルトで縛める。宏輝のズボンから抜き取ったものだ。 「大人しくできますよね?」 「う……っぅ……」 「先輩、どうして泣いているの? 俺が手を縛ったから? もしかして痛い? 強く縛りすぎっちゃった?」  間宮の的外れな問いに、宏輝はただ首を左右に振ることしかできない。 「俺が怖いから? 俺のことが嫌いだからですか? どこが嫌いなんです? 教えてください。直しますから」  そういうことじゃない。間宮は何もわかっていない。だが逆上されることが怖くて、宏輝は縛られた手で顔を覆い隠した。  宏輝が何も答えないとわかると、間宮は宏輝の上から退き、深いため息をついた。 「あなたは……」  どこか哀しさが宿ったその声に、宏輝は思わずその声の出所を見る。すっと目が合うと、間宮は真摯な態度で言った。 「そんなに長谷川先輩のことが好きですか?」 「…………好き?」  宏輝は間宮の言っている意味がさっぱりわからなかった。 「僕が、マサくんを好き……? お前は何を言っているんだ?」 「あれ? 先輩たちそういう関係じゃないんですか?」 「そういう関係って……」 「お付き合いしてるんでしょ? いつも一緒にいるし、昨日だって長谷川先輩の家から朝帰りしたじゃないですか。当然エッチもしてるんでしょ?」 「妙な勘ぐりをするな! 僕とマサくんはただの幼馴染だ!」 「へえ、そうなんですか。端から見たらそれだけには思えませんが、まあ信じますよ。ということは、俺にもまだチャンスがあるってことですよね」 「ふ、ふざけるな……くっ、う……」  再び間宮の身体がのしかかってくる。腹の上を陣取られ、宏輝は圧迫感に悶えた。 「ねえ、先輩。俺のことどう思います?」 「……っつ」 「俺のこと嫌い?」  上体を倒し、間宮がぐぐっと顔を近づける。有無を言わせないその威圧感に、宏輝はすっかり飲まれてしまう。無意識のうちに、首を横に振っていた。  宏輝の反応に気を良くした間宮は、宏輝の髪に手を伸ばし、柔らかい毛先をそっと撫でる。 「嫌いじゃないなら、ひとつお願いしてもいいですか?」 「……お願い?」 「ええ、そうです」  間宮と視線が絡む。ねっとりとしたそれは身に覚えのある嫌な粘り気を感じた。 「先輩の肌、触らせてください」

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