宏輝は着替えをしに一度アパートに帰る、と言って家を出た。 　将大は宏輝の身を案じて、一緒に行こうと申し出たが、宏輝はそれを断った。宏輝がそう言う以上、無理に引き止めることもできず、将大は宏輝の後ろ姿を見送ったのだ。 　こんなにも不安な気持ちで宏輝を送り出すのはいつ以来だろう。いや、そう珍しいことではない。 　宏輝と将大は親同士の仲がよかったこともあり、幼いころからずっと一緒に過ごしていた。 　家も近所で、周りに同世代の子供が少なかったふたりは、互いを「マサくん」「ヒロ」と呼び、兄弟のように仲良く遊んでいた。 　宏輝は出会ったときから内向的な性格で、将大もまた人見知りが激しい子供だった。だが言葉を必要としなくとも、ふたりは互いを居心地の良い相手だと感じ、不思議と一緒に過ごす時間が増えた。 　やがて小学校に上がり、ふたりは学校が終わると近所の公園に立ち寄り、日が暮れるまで遊ぶようになった。 　学年が上がるごとに知り合う同級生も増えていったが、ふたりは互い以外と関わるようなこともせず、常にふたりきりの時間を楽しんでいた。 　しかし小学四年生になった夏の暑い日、宏輝がある事件に巻きこまれる。そのときのことを思い出して、将大の顔が歪む。 　あれは自分さえ注意していれば、避けられる事態だった。