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第四章 手のひらの記憶4
あの日、宏輝と将大は些細なことで喧嘩をした。理由はふたりが違う部活動に入ったからだ。
もともと運動神経が良く上背がある将大はバスケットボール部に、身体が弱いが絵が得意だった宏輝は美術部に入った。運動部と文化部とでは帰宅時間が違い、ふたりでいられる時間は以前よりも減った。
美術部の宏輝は週に三回、対してバスケットボール部の将大は毎日授業後に部活動があり、また最終下刻も遅くなっていく。
身体を動かすことが好きな将大は部活動にのめりこんでいった。
しかし宏輝は将大と過ごせる時間が減ったことにより、日に日に不満を募らせていた。
将大は宏輝に先に帰ってもいいと何度も言い聞かせたが、宏輝は将大と一緒に帰ると言って、駄々をこねた。
部活動に入部してから三ヶ月後の夏、四年生だが才能のあった将大はレギュラー入りも視野に入った本格的な練習メニューをこなしていた。
宏輝とのすれ違いの日々は続き、ついにふたりの間に亀裂が走る。
練習に身が入らず苛立っていた将大は、いつものように体育館の外で待っている宏輝に対して「帰れ」と冷たく当たったのだ。
将大からの冷たい言葉に宏輝は泣きそうな顔をして、将大を一度も見ることなく走り去っていった。
宏輝の泣き顔を見たのは久しぶりだ。逃げるように去っていった後ろ姿が頭から離れない。
どうしてあんなにも冷たい態度をとってしまったのだろうか。
将大は宏輝のことが気にかかり、部活動どころではなくなってまう。簡単なパス回しでボールを取りこぼしたり、近距離のシュートですら入らない。将大らしくないミスの連続に、周りの部員たちも様子がおかしいと気づいたようだ。
結局将大は仮病を使って部活動を早退した。
変な胸騒ぎがしたのだ。
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