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第四章 手のひらの記憶6

「間宮……お前、何、言って……?」  宏輝には間宮が急に知らない人間に見えた。言っている意味がわからない。理解不能だ。まったく話がかみ合わない。  間宮は宏輝の上にまたがったまま、話を続ける。 「先輩いつも長袖着ているでしょ? アレ、他人を拒絶しているみたいで……俺すっごく寂しかったんです」 「お前には関係ないだろう……っ」 「ねえ、先輩。触らせて」  間宮が宏輝のパーカーの合わせ目のファスナーに手をかける。宏輝が止める間もなく、間宮はジジジと音を立てファスナーを下ろし、アンダーシャツをのぞかせる。 「やめろ間宮!」 「嫌です。やめません。おとなしくしていてくださいね」  間宮はことさらゆっくりとシャツの裾に手をかけ、じわじわと時間をかけて上へとたくし上げていく。  頭上で両腕を縛られた宏輝の肌は、間宮によって徐々にあばかれていく。 「――すっげえ」 「いや……いやだ……っ」 「嫌がる顔も可愛い……」  間宮はむき出しになった宏輝の白い腹に、うっとりと頬を寄せる。 「……っあ」 「赤ちゃんみたい……柔らかい肌ですね。俺以外に誰かに触らせました?」 「や……っめ、た、頼むから……!」 「ああ、長谷川先輩がいたか。愚問でしたね」  間宮は両の手のひらを広げ、宏輝の身体のラインをなぞっていく。節足動物が這うようなおぞましさに、宏輝は吐き気をもよおした。 「可愛いよ、先輩。そんなに怖がらないで」  間宮は腹まで捲り上げた宏輝のシャツを、首元までたくし上げる。完全に脱がすことができないため、間宮は中途半端に脱がしたシャツを頭に通し、縛められた両腕に巻きつけた。  宏輝の拘束はいっそう複雑になり、抵抗する気力すら失われていく。両腕を縛める拘束はそれ自体が間宮の意思のように、宏輝をがんじがらめに捕らえていく。まるでもうひとりの間宮に押さえつけられているようだ。  自由にならない身体は捨て、宏輝は心情で間宮に訴えた。 「もう、いいだろう……?」 「何がです?」 「もう、充分僕に触れたじゃないか……お願い、解放して……」 「何言っているんですか? 本番はここからですよ」 「あ……っ、や、やめて、そこは……!」  間宮は控えめに鎮座する宏輝の胸の飾りを軽く噛み、舌先でちろちろと舐める。  宏輝は徐々に目の前が暗くなっていくような感覚に陥った。

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