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第四章 手のひらの記憶8
宏輝の携帯が充電されたままだということに気づいたのは、彼が将大のアパートを出て、しばらく経ったときだ。
もう一度取りに来させるのも悪いと思った将大は、それを持って宏輝のアパートへ向かった。
途中にある公園をちらりと見る。大学進学を機に互いにひとり暮らしを始めたふたりは、ときおりこの公園に来て、何をするでもなく、ただ時を過ごすことも多々あった。幼い頃に遊んだ、あの公園のように。
実家へ帰ったとしても、もうあの場所には近寄れなかった。
宏輝との関係性が変わってしまった出来事。あの日を境に宏輝は将大以外の人間から極端に距離を置き、自らの存在を隠すように地味で素肌の出ないような衣類を好むようになった。
また、身体を触れられることにおいては病的なまでに嫌うようになり、その対象は将大も例外ではなかった。
あの日の公園での出来事が、宏輝という人間を変えてしまったのである。
苦いことを思い出して、宏輝のアパートへ向かう足が早まる。
どうしてこんなにも胸騒ぎがするのだろう。これではまるで、あのときと似たようなシチュエーションじゃないか。
将大は唇を噛み締め、強くアスファルトを蹴った。
宏輝のアパートに着き、インターフォンを押そうとしたそのとき、中から声が聞こえた。聞き間違いではない。宏輝が将大を呼ぶ声だ。
「ヒロっ!」
将大は急いで扉を開けて中へ踏みこんだ。不思議と鍵はかかっていなかったのだ。
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