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第五章 やさしい腕の中で3

「マサくん……?」  将大が振り向くと、そこには寝室の扉に寄りかかる宏輝の姿があった。 「起きたのか?」 「うん。ねえ、マサくん。お風呂入らない?」 「風呂?」  宏輝は小さく頷き、将大の肩に手を置くと、一緒に来てと誘う。  将大には宏輝の意図はわかりかねるが、今は昼間だろうという言葉は飲みこんだ。 「いいのか?」 「今日はマサくんとずっと一緒にいたい」  宏輝は将大に甘く微笑み、彼の腕を引っ張って浴室へと連れていく。脱衣スペースで互いの服を脱がせ合うと、手と手を取り合って浴槽へと向かう。湯は張られていないが、ふたりで入ればすぐに満たされるだろう。 「……ヒロ、また何かあったのか?」  将大は極力宏輝に触れないように、大きな身体を小さく曲げて浴槽の隅に寄せる。 「何でもない。ただ、こうしたかっただけ」  宏輝も将大に気を遣っているのか、彼とは対岸に身を寄せ、両膝を抱えこむ。  しばらくの間、会話はなかった。  ちゃぷちゃぷと満ちていく湯が、ふたりの時間の経過を示す。 「あのね、マサくん……」  湯がふたりの膝上ほどまで溜まったとき、宏輝が口を開く。 「僕とマサくんって、どういう関係なんだろうね」  宏輝は悲しげに笑った。 「幼馴染? 同級生? 友人? それとも親友?」 「……宏輝」 「親友がキスしたり寝たり、一緒にお風呂入ることなんかないよね」 「それは……」 「マサくん、僕はマサくんのことが好きだよ。今までずっと一緒だったし、マサくんが隣にいることが普通だった。今でも好き。でも、だからってマサくんと付き合いたいとか、同棲したいとか、そういうわけではないんだ」 「宏輝、やめろ」 「マサくんは僕と付き合いたいの? 僕の彼氏になりたいの?」 「そういう話はやめろ」 「答えてよ。僕たち小さいときから『おまじない』してたよね。あれはいけないことだったの? 僕たちの普通は普通じゃなかったの?」 「宏輝っ」  聞いていられなくなった将大は思わず宏輝の腕を掴んで止めようとするが、激しい水音と共に、それは弾かれた。 「触らないで」 「……悪い。俺、先に上がるから」  将大は宏輝の顔を見ようとはせずに浴室を出て行く。  ひとり残された宏輝は、湯が浴槽から溢れ出るまで、呆然と座っていた。自分は何をしたかったのだろう。将大を困らせたり、傷つけたりつもりはなかったのに。 「……っ、うぅ……」  宏輝は湯を止めることも忘れ、しくしくと泣いた。

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