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第五章 やさしい腕の中で6
「ま、マサくん……僕たち、場違いじゃない?」
そこは女の園だった。将大は慣れた様子で奥の席へと進んでいったが、宏輝は女性客からの視線に怯え、顔を伏せたまま動けなかった。
都内の猫カフェには連日大勢の猫好きたちが集い、癒しの空間となっている。その多くは女性客で、男は宏輝と将大のふたりだけだった。
「ヒロ、こっちへ」
将大が宏輝を呼ぶ。その腕にはトラ柄の猫がすっぽりと収まっている。宏輝と目が合うと愛くるしい眼差しでにゃーんと鳴いた。
宏輝が席に着くと、将大は店員を呼び、ふたり分のコーヒーを注文する。飲み物が来るまでの時間、宏輝は所在なさげに座り、将大の方は一度も見られなかった。
コーヒーが来ると将大は抱えていたトラ猫を膝から下し、宏輝に目を向け、飲むように勧める。ほどよく冷房の効いた店内で飲むコーヒーは美味かった。
「……マサくんは、ここよく来るの?」
「時々」
「僕たち以外、みんな女の人だから……」
「ここ、俺の親父から仕入れている店なんだ」
「ああ、そうなんだ」
将大の父親の仕事までは詳しく知らないが、店員とも顔なじみのようだし、将大の言っていることは真実なのだろう。
それにしても、男ふたりとは。将大がどういう意図でこの店をデートプランに入れたのかはわからないが、入店してから現在まで、宏輝に猫は寄ってこない。将大にはやたらと寄っていく。
宏輝は猫にすら嫉妬心を抱いた。
「マサくんってやっぱり猫好きなんだね」
猫をあやす方法がよくわからない宏輝は、テーブル横に備えつけてあった猫じゃらしを手にし、通路の向かいに座る黒猫に挑む。ふわふわのモール部分を左右に振るが、黒猫は見向きもしなかった。
「……来ない」
「猫はそういう生き物だ。こっちからすり寄ったところで、反応は悪い。好かれようと思えば思うほど、離れていく生き物だ」
「犬の方が好きかも」
「俺は猫のそういうところが好きだ」
「ふーん」
「気に入らなかった?」
「別にそういうわけじゃないけど」
「気を悪くしたらすまない。ヒロが喜ぶと思ったから……」
対面に座る将大はこちらが気を遣うほどに落胆している。間が持たない。宏輝はカップに手を伸ばし口に運ぶが、コーヒーはすっかり空になっていた。
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