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第六章 名を問う者ども3

「そうだね、どこから話せばいいんだろう……」 「俺から質問したほうが、答えやすいですか?」 「いや、自分の言葉で話すよ。ええと、そうだな……間宮は僕たちのこと、どこまで知ってる?」  宏輝は向かいに座る間宮を眺める。間宮は宏輝のストレートな問いに、少々頭を悩ませているようだ。 「訊き方を変えようか? 間宮は僕らに会った最後の日――思い出したくもないけどね、その日から僕らの間に何が起きたかなんて知らないよね。難しいな。どうやって話せば伝わるんだろう」 「あの日は本当にすみませんでした」 「あの日、だけ?」 「内田先輩に怖い思いをさせてしまって、本当にすみませんでした。謝っても、あなたに許してもらえるとは思っていません。形だけの謝罪なんて意味がないとわかっています。でも、今の俺は何を言ってもあなたを傷つけることになってしまいますよね……」 「――お互いに回りくどいね。ごめん、仕切り直そう」  宏輝も間宮も互いに気を遣うあまり、本筋からずれた話をしてしまう。宏輝はアイスコーヒーを飲み、喉を潤す。ひんやりとしたコーヒーが身体に染み渡っていく。内側から冷静になれた気がした。間宮もガムシロップ多めのカフェオーレを半分ほど飲むと、ふうーっと身体の力を抜き、深々とソファーに身を沈める。それほどまでに緊張させていたのかと思うと、少しだけ罪悪感が湧いた。 「実を言うとね……最近、マサくんとの距離を置きたいんだ」  宏輝は目を伏せ、寂しげに話し出した。 「それはどういう意味です?」 「どういうって?」  間宮がそこに口出しするとは予想外だ。宏輝は考える。自分はどういう意味で将大と距離を置きたいのだろう。おそらくそこまで深く考えてはいなかった。間宮と同じように、宏輝もソファーへ身体を沈ませ、リラックスした体勢になる。だが、なかなか答えは見つからなかった。 「先輩、俺から訊いても?」 「いいよ。訊かれたことに答えるほうが、やっぱり楽なのかもしれない」 「長谷川先輩との距離を置きたいと言いましたが、それはおふたりが付き合っていると考えていいんですか?」 「それは違う。僕たちは付き合ってないよ。ただの幼馴染」 「ただの幼馴染じゃないですよね。俺から見ると、あなたたちは付き合っているし、もちろん身体の関係もあるんでしょ?」 「それを訊くかな普通、こんな場所で」 「真面目に訊いているんです。先輩こそ、話の腰を折らないでください」 「何度も言うように僕たちはただの幼馴染で、恋人ではない」 「じゃあ先輩はただの幼馴染――この場合は長谷川先輩以外にキスをするんですか?」 「しないよ。気持ち悪い」 「でしょ。普通はそうなんです。いくら幼馴染とはいえ、男同士でキスやその先までいってて――俺は偏見で言ってるんじゃない。あなたたちの中の幼馴染という言葉、俺らの認識とだいぶずれていると思います」 「そう……なのか?」

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