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第六章 名を問う者ども5
「どうして……?」
「それはこっちのセリフだ。宏輝、どうして間宮と一緒にいる?」
「俺が誘ったんですよ」
「え?」
「俺から先輩を誘ったんですよ。いけませんか?」
間宮は宏輝の前に立ち、宏輝を守るようにその姿を隠す。宏輝は間宮の行為に感謝した。それほど今の将大と相対するのは恐ろしかったのである。
だが、間宮の行為は将大の怒りを助長するだけだった。
「俺は二度と宏輝に近づくなと言ったよな?」
「言いましたね。でも俺は、それでも先輩に会いたかったんです」
「今すぐ宏輝から離れろ」
「嫌です。だって先輩こんなに怖がってるじゃないですか。今のアンタに先輩を渡したくない」
「間宮、もういいから。ここは俺が何とかするから」
「無理しないでください。膝、ガクガク震えてるじゃないですか」
「怖くない……怖くないから……」
口ではそういうものの、宏輝は間宮の後ろから離れることができない。言葉だけ聞けば冷静そのものだが、将大はかつてないほど怒っている。隠しきれない怒気が、宏輝の肌をきりきりと痛めつけた。
「マサくん、聞いて……。間宮は悪くない。間宮は僕をかばって嘘をついたんだ……」
「先輩っ」
「だから間宮を責めないで。悪いのは僕の方だから……」
そうだ。間宮は何も悪くない。間宮を誘ったのは宏輝自身だからだ。
だが、将大は宏輝の言葉を信じようとはしなかった。
「宏輝、お前は何に怯えている?」
「え……?」
「間宮に何かされたのか? 間宮をかばうようなことをお前自らするとは考えられない」
「ち、違う! 僕は嘘をついてない! 悪いのは全部僕なんだ!」
「黙れ」
地を這うような、それでいて下から突き上げるような、静かな怒声だった。
「もういい。宏輝、少し黙って」
宏輝を言葉で封じこめると、将大はふたりとの距離をつめる。
「そこをどけ、間宮。これは俺たちの問題だ。お前には関係のないことだ。今すぐ失せろ」
将大が一歩ずつ近づいてくる。顔を上げなくとも気配でわかった。
「――先輩、よく見ておいてくださいね」
前に立つ間宮が小声で告げる。
「あなたたちの関係がどれほど異常なものか、今にはっきりしますから」
「異常……?」
宏輝が訊き返したそのときだった。
「っ、先輩!」
「え?」
間宮が叫ぶ。宏輝がその声に驚く間もなく、目の前がぐらりと揺れ、平衡感覚を見失う。いや、そうではない。宏輝が揺れたのではない。揺れたのは間宮だ。
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