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第六章 名を問う者ども6
間宮の身体はゆらりと後ろへ倒れていき、背後に庇われていた宏輝とぶつかる。だが宏輝の目にそう見えていただけで、真実、間宮は将大に殴られたのだ。
「ま……」
後に続くのはどちらの名前なのだろう。そのわずかな逡巡を、将大は見逃さなかった。
「その男に未練でもあるのか?」
「未練とかそういう話じゃないだろ? どうして間宮を殴った?」
「あいつがお前の前から退かないからだ」
「それだけで殴る? やっぱりマサくんおかしいよ! 最近のマサくんは怖い。どうしてそんなになっちゃったの? ねえ、どうして?」
「宏輝が俺から離れようとするから……」
「離れるつもりなんかない! でも今は距離を置きたい。それだけの話だろ? どうしてこんなにこじれちゃうの? 意味わかんない!」
「行くぞ、宏輝」
「え?」
「続きは帰ってから話す。これ以上お前を人前に出したくはない」
将大は一方的に話を終わらせると、宏輝の手を取って歩き出す。
「待てよ、マサくん! どこ行くんだよ?」
「俺の家だ」
「僕は行きたくない!」
「俺の家に帰るんだ!」
「痛いよッ、引っ張らないで!」
「――いい加減にしてくれませんか?」
「間宮? 大丈夫……?」
宏輝は間宮に近づいて怪我の具合を確かめようとしたが、将大がそれを許さない。
「行くぞ」
「先輩、その男に着いていくんですか? あなたなら、まだこちらに戻れる」
「ごめん、間宮……」
「先輩……」
「僕、やっぱり、マサくんを置いていけない……マサくんから離れたくない」
「先輩、本当にそれで先輩は幸せになれるんですか?」
「おかしなこと言うね。マサくんの隣にいることが、僕の幸せだよ」
「――もういいだろ、宏輝。行くぞ」
「うん……じゃあね、間宮」
「先輩!」
宏輝が将大ついて行くと決めたあとも、間宮は宏輝を止めようとした。だがそんな間宮の顔を見ても、宏輝の意志は揺らがなかった。
「これでいいんだ……」
それの声は誰に宛てたものなのか。宏輝は自分でもわからなかった。
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