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第六章 名を問う者ども7

 将大はカフェを出て彼のアパートまで帰る間、宏輝の手を離そうとはしなかった。  まだ日は高く、通りには多くの人がいる。宏輝たちとすれ違う人々は怪訝な、それでいて不安そうな視線を送る。男同士で手を繋いで急ぎ足で歩いているのだ。ふたりがまとう空気もどこか刺々しくて、それがまた往来の人々の関心を集めるのだろう。  宏輝は将大のアパートへ着くまで、ずっと下を向いていた。今日の服にはフードがついてなく、他に好奇の目から自らを守る方法がなかったのだ。  将大に連れられるがまま移動すること約三十分。聞き慣れた鉄階段が軋む音と、さびた臭いが到着のサインだ。辺りを見渡しても、通行人はほとんどいない。視線の暴力からの解放に、宏輝はようやく人心地つけた。 「……宏輝」  将大は柔らかくなった宏輝の雰囲気を無視し、さらに強い力で引っ張っていく。 「マ、マサくん、痛い、そんなに強く……」 「悪い」  外階段で二階へ上がると、将大は奥へと進んでいき、自分の部屋の前に着くと空いた手でポケットを探り、鍵を取り出す。その間、宏輝を掴む手の力が緩むことはなかった。 「散らかってるけど」  鍵を開けた将大はそういうと、宏輝を先に中へ入れ、自分は後に入った。 「散らかってるって――」  その言葉は誇張でも何でもなく、目の前に広がっていた。 「――何があったの?」  几帳面な将大の部屋とは言い難いその乱雑具合に、めまいがしそうになる。綺麗でシンプルな将大の部屋の面影はどこにもなかった。 「どうしたの、これ……?」 「ごめん……」 「どうしてマサくんが謝るの?」  宏輝はそう聞くが、将大からの返答はなく、また握られたままの手も離される気配はない。そのまま将大の寝室へと連れこまれそうになったとき、初めて宏輝の心に暗雲が宿る。 「まだそんな時間じゃない……」 「宏輝……」  将大は低くそう呟き、握り締めたままの宏輝の腕を引き寄せ、前置きもなしに口づけようとする。 「やだ!」  宏輝は迫り来る将大の口を空いた手で塞ごうとするが、将大は宏輝の手のひらをべろりと舐め、反対に宏輝の背筋を凍らせた。

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