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第七章 蜜月1

 宏輝はいつの間にか眠りに就いていたらしい。  気がついたら朝になっていた。 「うう……」  喉が掠れる。空気が乾燥しているようだ。  宏輝は寝ぼけ眼をこすり、辺りを見渡す。いつもの風景ではない。とろりとした思考の果てに、そういえば将大の家に泊まっていたことを思い出した。 「……マサくん?」  将大は宏輝に抱きついたまま眠っていた。宏輝と将大は同じ布団の中で一晩を過ごしていたのである。 「マサくーん?」  宏輝は将大を揺り起すが、目覚める気配はない。 「……どうしよう」  将大に抱きつかれたままの状態では身動きひとつ取れない。だが不思議と嫌悪感は沸いてこない。朝だからなのだろうか。いや、そんなことはないだろう。  将大の布団の近くには時計がない。宏輝は周囲を見渡すが、自身のスマートフォンも見当たらなかった。  宏輝は昨晩の出来事を思い返そうとするが、玄関先で将大に呼び止められてから記憶が曖昧で、正確なことは何ひとつ覚えていない。だが、将大とひとつの布団に入って朝を迎えたということは――そういうことなのだろう。実際、布団の中の身体に衣服はまとっていなかった。 「……っ」  恥ずかしさと照れくささに、宏輝の頬はかあっと熱くなった。 「……起きたのか?」 「あ、おはよう……」 「まだ寝てていいのに……」  将大は甘くかすれた声で言うと、宏輝の髪を撫で、頭頂部に軽くキスをする。  宏輝はびっくりして目をみはるが、どうしてだかそれ以上の行動には出られない。  将大の声が、髪をなでるその手が、触れ合う体温が、あまりにも優しかったからだろう。 「マサくん……僕、その……」 「ん?」  こんなに長く将大と触れ合っていたことがない。宏輝は真正面から宏輝を見る。照れ臭さのあまり思わず布団で顔を隠してしまった宏輝を、将大は笑った。 「ヒロは可愛いな」 「わ、笑わないでよ……っ」 「なあ、ヒロ。シたい」 「え……」 「だめか?」  まだ朝だというのに、将大は露骨な言葉で宏輝を誘う。いつもならば、そんなのは嫌だと跳ね除けていたはずなのに、どうしてだか今日は将大のいう通りにしたいと思う気持ちが強く、宏輝は布団の中で小さくうなずいた。 「触ってもいい?」 「……待ってマサくん。まずは……その、いつもみたいに……」  宏輝がそう濁すと、将大は掛布団を取り上げ、宏輝の唇に自分のものを重ね合わせる。爽やかとは言い難い、若者らしい朝だった。

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