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第七章 蜜月7
「わかるか、ヒロ?」
将大が持つ包丁は、ガタガタと小刻みに震え続ける。
「俺にとってヒロはすべてなんだ……ヒロがいない世界なんて考えられない、考えたくない……ヒロは、ヒロは、俺のすべてで、俺の大事な人で、大切にしたい人で……」
「マサくん……っ」
「俺はヒロのことがずっと好きで……」
「僕だってマサくんのこと好きだよ?」
「違う……違うんだ、ヒロ……俺は、お前を……お前を……」
そこまで言って、将大は深く息を吸いこむ。
「俺はお前を愛している……」
「……うそ……」
「俺はお前のことがずっと昔から好きで……もっとお前と話したくて、もっとお前に触りたくて……宏輝、お前に俺のすべてを知ってほしくて……そして俺は、お前のすべてを知りたい……」
「マサくん、いやだよ……」
「十年前、あの公園で何があったのか――俺はお前に聞けない。ずっと聞きたかったのに、お前に拒絶されるのが怖くて……ヒロ……お前のことを知りたいのに、お前の嫌な過去には触れられない……今の俺は、ただの気持ちの悪い男なんだ……」
そんなことはない――と、簡単に言えればどれほど楽だろう。
「ヒロ、俺はお前がいないとだめなんだ……」
将大の足元にぽたり、と雫が落ちる。
将大は震えながら、泣いていた。
「マサくんは――」
宏輝は将大に自分なりの言葉をかける。
「――マサくんは僕の大事な人だよ……? どうしてそんなに悲しいこと言うの?」
「悲しいこと?」
「マサくんが死ぬなんて僕は嫌だ」
「死のうとは思ってないよ」
「じゃあ早くそんなもの捨ててよっ!」
宏輝は叫んだ。
「僕を残して死ぬなんて許さないから!」
「……じゃあ、俺から逃げない?」
「逃げないって最初から言ってるのに……マサくん僕の話聞こうとしないから……っ」
「……ごめん」
「マサくんは僕が好きなんでしょう? 僕もマサくんが好きだよ? なのに、どうしてこうも噛み合わないの? どうしてすれ違っちゃうの?」
「……悪かった」
「謝るくらいなら、早くそれを手放して」
宏輝の説得に、将大はようやく折れる。金属の刃がフローリングに当たる高い音がカツーンと鳴った。
「ヒロ、悪かった……でも……」
「何も言わないで」
宏輝は将大に駆け寄り、自分からその不安定な身体に抱きつく。
「僕は逃げないから……」
「……本当?」
将大の声はどこか幼かった。
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